「鬼」
鬼が人を食用として食べる。
ここは地獄だ。
武器を片手に丸腰の人間を追いかけ回す色とりどりの鬼たち
体格もよく、顔もお面でよく見るあの厳つい鬼の顔だ。
川の近くで鬼に見つかった。
ヤツらは遊ぶ様に人間を殺しにくる。
やばい。逃げられない。
怖い。怖い。怖い。死にたくない。死んではダメだ。どうしよう。怖い。どうしよう。
そうだ!殺される側から殺す側になれば怖くない。
恐怖のどん底で湧いた感情。
鬼が近くで落とした刀を手に取った。
鬼は馬鹿にした顔で私を舐めてかかる。
不意打ちをついて鬼の首を落とした。
普通の武器では鬼の首に傷を付ける事も出来ない事を理解していた。
だから、鬼の持っていた武器を使った。
ああ、一安心だ。もう、殺されない。
ただ、残った胴が襲ってくるかもしれない。
あの大きさの体が動いたら私達人間は簡単に殺されてしまうかも、
上半身と下半身に分けた。
足だけで追いかけてくるかも。
下半身を細かく切った。
上半身の腕は危険だ。
あの大きさの腕で人を殴ったら誰か人間が殺されてしまうかも。
腕を細かく切った。
手のひらは怖い。
人の頭は握りつぶせる程の握力も大きさもある。
指を切った。
全てを紐でまとめて川に流した。
首だけがあるこの鬼が身体を見つけたら元の状態に戻るだろうと本能的に思ったからだ。
誰にも見つかりませんように…
でも、これは私だけが見つけられる。
しばらくして気が付いた。
人間見れば殺しにかかって来るはずの鬼達が私を素通りする。
おかしい。何故だろう。
首だけの鬼が私へ言う。
鬼の血を全身に浴びている貴様は鬼に紛れている。だから、同族だと思われ襲っては来ない。
やっと安心した。安堵した。
そうか。なら、人間を助けられる。
首だけの鬼に身体を返して欲しければ協力するように脅した。
首だけの鬼は清く協力してくれた。
鬼が人間を狩る理由、食べるだけじゃなくて首を持って帰るとお金と変えてくれる事を教えてくれた。
鬼の血を再度塗り、首を持って
鬼が言う掲示板へ足を運んだ。
張り紙がしてある。
その前に鬼が立っており。張り紙を貼ったり、説明をしたり袋に入った金を渡したりと何かと忙しそうにしている。
張り紙には顔と数字が書いてあるもの
名前だけが書いてありその横に数字が書いてあるもの
主にその2種類だ。どこか受験発表の張り紙ににていると思った。
木の机を挟んで武器を持った鬼たちがワイワイと騒がしい。
新しい張り紙が出された。
私の顔が書いてある。
他の張り紙より0の数が多い数字が書かれている。
持ってきた鬼と張り紙を貼っていた鬼が険しい顔を更に険しくして話し始めた。
張り紙を貼った。
騒がしかった鬼の集団目の色が変わった。誰もがギラギラとその張り紙を見ている。
私は、その光景を鬼の集団に紛れながらそれを眺めた。
張り紙を貼った鬼が大声を上げる
「決して、食べるな!殺すな!こいつを連れてこい!連れてきたものにこの金額の倍の金を出す!」
雄叫びと共に数人の鬼が立ち去った。
首だけの鬼が教えてくれた。どこに人間がいるか分かると
首だけの鬼とよく話した記憶がある。
鬼の使い道を知った。
鬼を切る血を摂る、小屋に隠れていた親子に血をかけた。
涙ながらに感謝された。
鬼の使い道を知った。
鬼を切る肉を摂る、大怪我をしたお爺さんに食べさせた。怪我がなくなった。
涙ながらに感謝された。
鬼を切る。血を被る。
段々と恐怖だけだった心が何も感じなくなっていった。
何も聞こえない。感じない。ただ、見つけた人間を救う。
「おいお前大丈夫か?」
首だけの鬼が私に話しかける。
ああ、この鬼も長くない。
新しい隠れ蓑を作らなくては。
鬼の首を川へ流す。
いつか流した身体が全て元に戻るように。
元に戻って泳いで川から上がればいいと思った。
涙が出た。私は私に恐怖した。
人間は私に感謝した。
鬼より怖い私に感謝した。
私は恐怖した。何も感じなかったはずなのに涙が止まらない。
「ごめんなさい、ごめん」鬼の首を流した川に向かってひたすら謝る。
数時間がたった気がする。
謝り続けた後あの優しい鬼が鬼として生まれない様に
「ありがとう。また、会おう」と感謝と祈りを捧げた。鬼の為の花を置いて
人がまた襲われる声がした。
真新しい鬼の首と血を塗って私は鬼の武器を持ってまた人を助ける。
私は、何者なのだろう。