史上最高のゲーム音楽#3-ボスバトル曲編-【ブンガク×オンガクVol.6】
ゲーム音楽特集第三弾は「ボスバトル曲」といこう。
ゲームのクラマックス、ボスバトル。
アツく、心を打つ楽曲が目白押しだ。
今回も、ただ有名曲を並べるだけでなく、コンセプトや音楽性に注目していきたい。
なお、ラスボス曲と通常ボス曲は分けていない。
細分化しすぎるのも良くないだろう。
アーシャのアトリエ 〜黄昏の大地の錬金術士〜「昨日の敵は今日の材料」(柳川和樹)2012年
エモいBGMの多いアトリエシリーズの中でも、個人的には群を抜いて好きな一曲。
とにかく曲進行が秀逸だ。
ヘビーなエレキギターから始まり、緊迫感を煽るパートの後、突如メロディアスなピアノ旋律が乱入してきてたまげる。
アトリエ音楽常套の笛やアコーディオン調の音色で彩りながら曲は進み、大サビですべてが揃ってのオールスター感。
まるで、各章の主人公が最後に集結するドラクエ4的展開ともいえよう。
ボス戦の持つ「通常戦闘とは一味違う、驚きや緊迫感」をポップに表現した、実にボス戦らしい楽曲だ。
ゲーム自体も、錬金術が衰退していく「黄昏の時代」をテーマにした、どこか哀愁漂うシリーズ異色作。
ハマる人にはハマる要素がてんこ盛りの作品になっている。
OCTOPATH TRAVELER「ボスバトル2」(西木康智)2018年
2018年にスクエニから発売された、ドット絵で紡ぐ超王道ファンタジーRPG「オクトパストラベラー」。
サガライクな群像劇で、音楽も物語もビジュアルも、とにかく王道。
しかし、懐古層だけを狙った手抜きでは決してなく、ドット絵ビジュアルの中に、奥行きの表現や、雪・水・炎のエフェクトのブラッシュアップなど、現代の技術で再構築された表現はまさに「伝統と革新の融合」だ。
音楽面でも、王道を貫きながら様々な工夫が凝らされている。
本曲はボス戦で流れるわけだが、その前のイベントシーンにおいて因縁を抱えるキャラのテーマが流れ、そこからシームレスに本曲へ移行する。
フェードチェンジでなく、文字通りシームレスにだ。
これは「バトルエクステンド」という技法で、テンポやメロディを合わせるなど、作品全体を通して、実にテクニカルな仕上がりになっている。
現在、音楽やマップを流用した、アプリ版が無料でプレイできるので、気になった方はぜひ体験してみていただきたい。
ファイナルファンタジーXIV : 新生エオルゼア「過重圧殺! ~蛮神タイタン討滅戦~」(祖堅正慶)2013年
現在も稼働を続けるオンラインRPG・FF14より、初期高難度ボスの中でも人気のタイタン戦より、最終フェーズで流れる楽曲を紹介。
僕も五年くらい光の戦士(本ゲームを遊ぶプレイヤー)をやっていたが、極タイタンあたりを攻略している時が一番楽しかった。
デスボイスとコーラスを使用したヘビーロックで、オリエンタルな雰囲気も相まって、悪魔崇拝じみた妖しさを醸し出している。
人心を操る蛮神との戦いに相応しい楽曲だ。
FF14のボス戦は「大縄跳び」とも揶揄されるが、ギミックをパーティ全員が理解してこなさなければクリアできない。
例えば、時間経過で爆発する岩が発生したタイミングを確認しておき、順に場所を移動して避けていくなど。
ボスの行動にはパターンがあり、それらを覚えておかなければ話にならないのだが、BGMと意外に連動しており、一定のリズムをはっきり刻み続けるパーカッションも含めて、曲に身を委ねることも攻略に寄与したりする。
そういう要素も含めて、奥深い楽曲だ。
ゼノサーガ エピソードI[力への意志]「Last Battle」(光田康典)2002年
旧スクウェアの名作RPG「ゼノギアス」のディレクター・高橋哲哉が、続編制作が認められなかったことで退社して作ったのが本作ゼノサーガシリーズ。
権利上の制約からか、明確な続編ではないが、ゼノギアス、ゼノサーガ、ゼノブレイドと、緩やかに繋がっているのがゼノシリーズだ。
ゼノギアスから引き続き、音楽を手掛けたのは光田康典。
オーケストレーションにも挑戦し、どこか切なさ漂う本曲をラスボス戦BGMに採用した。
本作は宇宙船が舞台の、ハードSF RPGであるが、探索時は空調音など環境音しか流れないことが多い。
床面の違いによる足音の違いなど、音へのこだわりが強い作品で、当時はその繊細さに唸ったものだ。
なお、アニメっぽいキャラクターと掛け合いのせいか、ライトな雰囲気も担保されており、設定の硬さと物語の柔らかさのハーモニーは、ゼノブレイドシリーズにも受け継がれていく。
テイルズ オブ エクシリア2「ただひとり 君のためなら ~Song 4 u~」(桜庭統)2012年
浜崎あゆみの歌う本作の主題歌「Song 4 u」を、テイルズシリーズの音楽を手掛ける桜庭統がアレンジしたラスボス戦曲。
桜庭統は、テイルズシリーズをはじめ、ヴァルキリープロファイルシリーズ、スターオーシャンシリーズなどを担当した、90年代から活躍する重鎮。
キーボードモリモリで、テンポの速い楽曲を作る名手で、90年代Jロックの雰囲気が好きな人にはたまらない。
テイルズシリーズは、2作目のデスティニーで主題歌にDEENの楽曲を採用し、作中にライブシーンを作るなど、メジャーシーンとのコラボも積極的だ。
また、キャラデザに いのまたむつみを採用し、アニメ表現も初期から取り入れるなど、ゲーム界隈にとどまらず、サブカル全体を巻き込むことを狙った戦略が一貫している。
オタク臭さは漂うが、そういうものに抵抗のない方には、実に垂涎のシリーズ。
近年の作品は、ゲームシステムがやや大味で冗長な部分も目立つが、多作故の作りの甘さを改善しつつ、ブラッシュアップした作品を期待したい。
Undertale 「MEGALOVANIA」(Toby Fox)2015年
ボス戦特集ならば、この曲を紹介しないわけにはいかないだろう。
アメリカ人のレトロゲーム愛好家トビー・フォックスが、音楽を含めてほぼ一人で制作した「Undertale」のラスボス曲。
「誰も死ななくていいやさしいRPG」として人気を博し、世界的に大ヒットした。
本曲のYouTube再生回数が5400万回を超えていることからも人気が窺えるだろう(2021年1月時点)。
「MOTHERシリーズ」を始め、JRPGへのリスペクトが随所に見られ、音楽的にはチップチューンを志向しながらも、シーンに合わせて自由なアレンジ。
型にはめようという日本的性向では生まれにくい作風だ。
レトロゲームにも良曲は多いが、どうしても昔のハードの音源は音楽的迫力に欠け、近年の楽曲を選んでしまいがちだ。
しかし、こういうレトロゲームの音楽性を再構築する試みがあるおかげで、現代でも楽しむことができる。
Undertaleのボス戦曲は、紹介したいものが多すぎて迷った。
興味を持たれた方は、ぜひプレイしていただきたい。
ニーア オートマタ「取リ憑イタ業病」(岡部啓一)2017年
ニーアシリーズの二作目「ニーアオートマタ」より。
前作に引き続き、癖のあるダークな物語と、ゴシックな音楽性が高い評価を受け、商業的にもヒットした本作。
ゲームは周回が前提となっており、同じ物語を別の人間視点で追想することによって、マクロな世界観が見えてくるという独特なもの(この点は賛否両論あった)。
ちなみに、ブレスオブファイア5も似たようなシステムを採用していたが、周回の嫌いな人からは不評で、シリーズが行き詰ってしまったのは悲しい思い出だ。
さて、その独特なシステムを音楽面から支えるため、楽曲には多数のアレンジが用意され、その量はサントラにすべて収録することができないほど。
その中でも本曲は、ゴシックな響きだけでなく、ブルガリアンヴォイスのコーラス(攻殻機動隊であった西田和枝社中の民謡っぽいブルガリアン)を採用し、プリミティブな雰囲気になっている。
そのタイトルに、「業病」(悪業の報いとしてかかる難病)というワードを埋め込むのが実にニーアシリーズらしい。
サントラだけでも、買いの作品だ。
メギド72「化身舞闘 -嵐渦叫風-」(寄崎諒)2017年
ワイルドアームズシリーズで有名なメディア・ビジョンが制作し、DeNAから配信されているスマホRPG「メギド72」。
ヴァイオリン旋律の軽やかさと儚さが特徴的な本曲を始め、レベルの高い楽曲が多く、音楽面からも評価の高い作品だ。
ほんと、最近のスマホゲームはハイクオリティ。
本作は運営も活発で、イベント開催率も高い。
上に貼ったYouTubeも、運営が昨年開催した「メギドミー賞」なる企画で、ベストBGMを決めるためにアップしたものだ。
本曲はヴァイオリンに耳を奪われがちだが、軽快なベースもレベルが高く、ぜひヘッドフォンで聴いていただきたい。
スーパーペーパーマリオ「サイコーのショー」(三留尚子、関河千佳)2007年
ペーパーマリオシリーズの三作目より、ラスボス戦BGM。
開発はインテリジェントシステムズとはいえ、やはり任天堂マリオシリーズのクオリティは高い。
センスだけで勝負しておらず、細部まできちんと詰められているのはさすが。
ラスボス戦では、傀儡とされたルイージとラスボスが融合し、実にキモチワルイビジュアルとなって対峙するが、音楽もその奇妙さを補完すべく怪しげな雰囲気を湛えている。
デジタルなエフェクトと、オルゴールっぽい音色の取り合わせも奇妙さに拍車をかけており、本作のラスボス戦に実に相応しい出来栄えだ。
昨年もペーパーマリオシリーズ最新作がリリースされていたが、意外にダークな展開も多く、任天堂ゲーを敬遠している方にも、ぜひ遊んでほしいタイトルである。
ドラゴンクエストVI 幻の大地「敢然と立ち向かう」(すぎやまこういち)1995年
さて十曲目。最後はドラクエシリーズの中では影の薄いVIより、当初はラスボスと思われたムドー戦のBGMを。
鳥山明の絵柄が変わり、物語のテーマも「自分探し」という現代的なものになり、旧来のファンが戸惑った面も多かった本作。
全体的に妖しげでアダルティな雰囲気が漂っており、音楽も超王道から半歩ズレた、何とも怪しげなスタンスを取っている。
ⅢやⅤと比べ、当初はあまり評価されなかった本作だが、時代の変遷と共に、物語の奥深さや、テクニカルな音楽性が再評価されたのは嬉しい限りだ。
本曲は、意外性ある出だしから、一転、勇猛な雰囲気が醸し出されたかと思いきや、すぐさまムドー城でも流れた妖しげな旋律がリフレインされ、実に曲進行が忙しい。
幻惑的で激しい戦いを象徴する楽曲として優秀で、最新作のⅪでも重要場面で本曲のアレンジが流れた。
リメイクにはあまり恵まれていないのだが(ⅣやⅤはPS・PS2版リメイクがあった)、多くの人にもっと遊んでほしいタイトルである(普段ゲームをしない妹も本作はクリアまでプレイしていた)。
ということで、今回はボス戦を特集してみた。
クライマックスに相応しい、熱く、エモイ楽曲が多く、意外にバリエーションにも富んでおり、選曲は悩んだが、今回もなるべく色々なところから持ってきたつもりだ。
なるべく多くのゲームを紹介したいという思いもあり、密かに1タイトル1楽曲縛りをしているのだが、ニーアとかUndertaleとか、良曲盛りだくさんなタイトルからは何を選ぶか本当に迷う。
さて、ゲーム音楽特集が思ったより好評なので、また機会を見て更新していきたい。
(筆者)キャンディ江口
キャンディプロジェクト主宰。作家、演出、俳優。
近年は「ブンガク×オンガク」をテーマに舞台作品を発表している。
映像出演時は「江口信」名義。(株)リスター所属
Twitter:@canpro88
HP:http://candyproject.sakura.ne.jp/