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短編小説『自動犯罪機』

男は今日、出所をした。
大したことではない。暴力沙汰だ。
男は学生の頃からそこらでは有名な悪だった。
万引きやバイクでの暴走で補導されることはしょっちゅうだった。
大人になってからは薬物に手を出すことや、暴力を起こすことも多かった。

そういった行動が男の心を昂らせていた。
犯罪を犯すことで、男は自分の心が満たされていく感覚になっていた。

「逮捕なんて怖くねぇが、刑務所の中は暇だ。犯罪を犯しても罪にならなきゃいいのにな」

そんな気持ちが男にはあった。

出所から1ヶ月ほどたったある日、男は路地を歩いていた。
すると、道路の脇に変わった見た目の自販機があった。
横には大きく【自動犯罪機】と書かれていた。
「ダジャレかよ。略して自犯機ってか」
男は呆れ笑いを浮かべた。

その自販機は見た目だけではなく、売ってるものは、缶の飲み物ではあるが、名前も変わっていた。

『万引き』『痴漢』『強盗』『放火』、、

どれもが犯罪の名前だった。
だが、最後の1缶だけは文字が切れてて読めなかったが、『殺』という文字だけは微かに見えた。
恐らく、殺人などの類なのだろう。

値段も名前によって変わっており、最も安い物だと100円だが最後の読めない『殺』の缶に至っては、10万円もした。

「変わった趣味の名前をつけるメーカーもあるもんだ」

男はそう思ったが、興味本位で100円を支払い、『万引き』と書かれた物を買ってみることにした。

出てきた缶は特に変わったところもない。
文字だけが印字されてる普通の缶だった。

男は開けてそれを飲んでみた。
味はただの水のようだった。

「金の無駄だったな。」

そう呟いたと同時に、男の足が勝手に歩みを進めた。
男は焦ったが、着いたのは近所のスーパーマーケットだった。
用もないのに、そのスーパーに勝手に入り、近くにあった惣菜コーナーから、唐揚げを手に取った。
それと同時に、男はスーパーの出口へと向かい、そこから堂々と出ることができた。
不思議と店員やお客さんから注目されることもなかった。

何かがおかしいと男は思った。
再び先ほどの自販機に戻り、今度は500円でカツアゲと書かれた缶を買った。
それを飲むとまた、男の足は勝手に歩み始めた。
近くを通ったサラリーマンに声をかけ、お金を出すように要求した。
もっとも、男の口が勝手に話しただけではあるがサラリーマンの男は何も言わず、財布のお金を全て男にあげた。

5万ほど受け取った男は驚いたとともに、あの自販機にある飲み物を飲めば、書いている犯罪は罪にならないのだと男は悟った。

そうと決まれば話は早かった。
次に男が買ったのは、強盗と書かれた缶だった。
それを飲むとまたもや男の足は歩みを進め、銀行にたどり着いた。
銀行内に入ると「金を出せ!」とこれまでの人生で発したことのない大きさの声を張り上げ、事務の女性に男は要求した。

当たり前かのように、事務の女性は大金をバッグに詰めて男に渡した。他のお客もまるで男を空気かのように気にする様子もなかった。
間違いない。あの自販機の飲み物を飲めば書かれてる罪は罪にならない。
男は心を躍らせて銀行を後にした。

すると、前からかつて一緒に悪さをしていた友人を見かけた。
心踊ってる男は、友人に声をかけた。
友人は驚いた様子ではあったが、男の声かけに反応した。

「おぉ!10年ぶりだな!久しぶり!」
「久しぶりだな!元気してたか?なぁ、いい話があるんだが、俺と一緒にまた昔のように悪いことしないか?」

男は友人にそう投げかけた。
きっと友人は乗ってくれる。
男はそう思っていた。だが、実際はそうではなかった。

「お前、まだそんなことやってるのか。いい加減大人になれよ。ダサいぞ。」
「そういうお前こそ、昔は俺と一緒だったじゃねぇか」
「昔はな。でも、もう変わったんだ。悪いが関わらないでくれ。まともな人生を歩んでいるんだ。それじゃ」

友人はそう言って、男の前から去っていった。

「なんだあいつ、すかしやがって。」

男は虚しさと怒りと友人への殺意が芽生えた。

「そうだ、あの自販機の1番高い『殺人』の飲み物。あれを飲もう。ついでに、『放火』も買って飲んでやる。どうせ、犯罪にはならないんだ。」

強盗で奪ったお金を使い、『放火』と『殺』と書かれた飲み物を買って、勢いよく飲んだ。

「俺を馬鹿にしてるとどうなるか。今にみてろ」

そう思ってると、男の足はガソリンスタンドへ向かった。そして、灯油を購入した。

「あとは、あいつを殺すのみだ」

すると、男性の手が勝手に動き始めた。
いつもと様子が違う男が困惑してるのも束の間、自らに灯油をかけた。
そして、ガソリンスタンドの客からライターを奪うと自らに火をつけた。

燃える熱さと苦しさの中で、男はどうしてこんなことになったのだと考えた。だが、その答えが出る前に男は焼死してしまった。

男のことを気にするものは誰も周りにいなかった。
かつて男だった炭の塊は、ゴミのように扱われ、そのまま捨てられた。

路地裏から缶が転がって、道路の隅に止まった
その缶には『自殺』と書かれてた。

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