「キス」「枷」「花嫁」
俺は誰もが知る勇者、アレクシス。
今日は大魔王に攫われた我がミソギ王国の皇子の花嫁を救いに来た。
花嫁は突拍子もない偏食家なのだという。鉄を好み、中でも罪人に付けられ血が付いた足枷が大好物なのだというから驚きだ。
まったく……何故このようなへんたーーいや、陳腐な女性を花嫁に選んだのかが分からない。皇子の一目惚れで結婚が決まったというのだから、これまた驚きだ。王国なら、もっと吟味してから花嫁を選んで欲しい。
さすがに、この偏食は隠しているらしい。というより、隠し通さなければならないだろう。
しかしだ。罪人が居なくなり、花嫁が大好物とする血が付いた足枷が無くなったらどうなるのかが怖い……
さて、雑魚の手下たちをバッサバッサとなぎ倒し、やってきた魔王城。
「花嫁様!助けにまいりました!」
俺は大声で花嫁と大魔王がいる広間へと進んだ。
「えっ!?」
その光景を俺は信じられず、何度目を瞬かせたか分からない。
大魔王と……仮にもミソギ王国皇子の花嫁が見せつけるかのようにブッチューーーっとキスを交わしているのだ。
「花嫁様、何をなさっておられるのです!そいつは、ミソギ王国の敵の大魔王です!早く離れてこちらへ!」
花嫁はこちらをチラッと横目で見るとため息を吐いて
「だって、この御方のキスはとても美味なのですよ?今まで味わってきたものとは比べ物になりません」
ええええええええええええ!?
ちょっと待て、いろいろと待て。
花嫁を連れて帰らないと俺のメンツが……いや、罪人の足枷を食べる変態をミソギ王国に持ち帰るなら、このままいっその事この大魔王に花嫁を……
俺の判断は鈍る。どうしたらいいのか。分からない。
「あぁ、なんて素晴らしいんでしょ」
恍惚とした瞳に頬を赤らめてキスをし続ける花嫁。
しかし、そこで状況が変わった。
「もう、いいだろう。次は俺の番だ。いいな?」
初めて大魔王が喋った。
大魔王の声ってこんなに……って関係ない!
「何をする気だ!」
「何、大したことは無いさ」
そう言って大魔王は花嫁を頭からむしゃぶりついた。
この一件以来、俺は勇者をやめて細々と山の中で暮らしている。
勇者の名声も無くなり、何よりあんな衝撃的な現場を見せられては