約10年ぶりに会えたから今度はまた10年後かもしれません。【ヴォルフガング・ライプ《ミルクストーン》】
子供時代のいつか誰しもやったことがある事象。
コップのぎりぎりまで牛乳やら飲み物を注ぐこと。
それを大理石の上で行う作品がある。
私の大好きな作品《ミルクストーン》である。
初見は2013年大阪の堂島ビエンナーレにて。
久々に先日森美術館で開催中の〈地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング〉で再会した。
大理石の内側から発光するような柔らかな輪郭の上に、牛乳の白い水面がある。その水面も遠目では認識がしづらいが、近づくと水分特有の鋭利な反射が見え、水面の存在が確認できる。そして表面張力によって微かに盛り上がっている様も。
本作品は学芸員の手により毎日2リットルの牛乳を大理石の表面に注ぎ、1日の終わりにそれを拭き取ることが繰り返されている。
毎日祈りのように、儀式のようにそれは繰り返されるという。
とても単純な行為で成立しているとてもシンプルな作品だが、この美しさは誰もが認めるものだろう。
この祈りのような行為の痕跡を公の場で公開すること、そこから発展して他者に委任することは、習慣からパフォーマンスへ、パフォーマンスから作品へと形が転じているようにも思えてとても面白い。
本展では彼の《ヘーゼルナッツの花粉》と《べつのどこかで―確かさの部屋》とともに展示されていた。
常人にはできない花粉や蜜蝋の収集が、ちょっと狂気じみている気もしなくもない。長い習慣に基づいた作品であり、シンプルながら見せ方の美しさに思わず鳥肌が立った。
それにしても、良い作品はまた美術館でお会いする機会が多い。
流行りの表現方法ではなく、また普遍的な美しさを持ち合わせているため、展覧会にお呼ばれすることがあるということだろう。
それによりまだ30年しか生きていない私でも、約10年ぶりの再会をしたりして。
※当時の《ミルクストーン》の制作年は1975年で、本作は1995-1998年なので細かく言えば再会ではないかもしれない。
今ならわかることと、当時の素敵だと思ったこと自体を大事にして。
またお会いしましょう。
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