ただひたすらに手仕事がある【岩井俊雄】
岩井俊雄、といえばICCで見た可愛いあの子《マシュマロスコープ》の生みの親。現代アートにのめり込み、そして展示替えごとにICCに通っていた者としてはメディアアート界を背負って立つイメージしかない。
彼が、絵本作家だということすら知らなかった。
茨城県立近代美術館で開催の〈どっちがどっち?いわいとしお×岩井俊雄 100かいだてのいえとメディアアートの世界〉を鑑賞。第1室の絵本のタッチの装飾を見たときになんの知識もない私は、おチビさんたちの夏休み仕様にしているかな、なんなら彼のメディアアートの作品を生で拝見できない可能性すら頭をよぎった。ないない、メディアアートの重鎮の展示でそれを見せない展示なんて…と思いながら、ファンシーな入口を潜った。
絵本は『100かいだてのいえ』というシリーズ作品であり、子どもたちが動物や虫たちが住む100階建ての家を訪れるというもので、かわいらしい画面から数字の概念が学べるものとなっている。
この作品は鉛筆画をPCに取り込み着色し、出力して影や光を書き足して...という作業工程があり、アナログとハイテクを行ったり来たりしながら完成している。
岩井俊雄は鉛筆を握らなそうというこれまたど偏見があり、こんな手仕事を繰り返してるとは驚いた。
後半がメディアアーティスト岩井俊雄の展示。
錯視を利用した作品や、人間の動きに反応する作品が多く、館内には電子音が響いている。
子どもたちも作品を楽しむコツを得てところどころで歓声を上げながら楽しそうに鑑賞していた。
《映像装置としてのピアノ》は白鍵しか押さないようにできている。つまり半音(黒鍵)を押さないから音としてぶつかることなく、不協和音になることはなかなかない。またリズムと強弱がプログラミングされているから、誰でも音楽を奏でることができる。アーティストたちが即興音楽を作り出すような気分を味わえる。
ワークショップのコーナーもとても良い。
絵本をモチーフとした枠に絵を描いて壁に展示できるようになっており、ハサミやペン、テープが誰でもいつでも使えるようになっている。刃物は危険だから置いておかない、落書きされたらこまるからペンは鉛筆にして、みたいなことはなく、来館者への期待と信頼が見えるワークショップコーナーであった。
作品のスケッチやメモが多数展示されており、思ったよりも手仕事が作品を支えているんだな、と感じた。どうしてもメカニックな作品と対峙するのでその過程に手仕事が入る余地があることをわすれてしまう。
絵本をみると手仕事がわかるが、そちらは意外にもハイテクで、メディアアートの方は意外にも手仕事がある。
境目を行き来しながから、作品を生み出している。
作家紹介
■岩井俊雄