眩い光【小林エリカ】
カウントダウンが聞こえる。
森美術館でみたクローズドなスペース。
女性の声のカウンドダウン。
ストロボ。
蛍光塗料。
ネオンサイン。
病室にも似た不健康な白い壁面。
カウンドダウンがゼロになったら、
白く眩い光がスペースを満たした。
原爆だ
原爆のひかりを模しているんだと気づく
サンライズセレナーデが響く
原爆が落ちるとき、きっと戦闘機で、もしくは管制塔の誰かがカウンドダウンしていたはずだ。
こんなふうに。
なんて悲しくて
なんて空しい
なんて美しい
なんて恐ろしいのだろうか
彼女の母の物語は原爆や原発の時系を参照しながらも直接的な関わりはなく、日常の片隅にある存在をちらつかせる。
日常が成り立っていた事実や、痛ましい事故や事件がありながらも続いていく生活を淡々と描く。
数年前の作品であるが、今も色褪せず思い出せる。
当時のわたしはインスタレーションで体験する時間の経過がストレスで、なにかを待つのが苦手だった。
この作品もカウントダウンしているからきっと何かあると思いながら、耐えるようにカウントダウンがゼロになるのを待った。
ゼロになったら、原爆が落ちる光景を連想させるような、白く眩い光がスペースを満たした。
待ってよかったと思った、しかし、原爆を模しているのなら、待つことは死だとも思いながら、その美しさに呆然とした。
彼女の作品で待つことを覚えた若いわたしは、インスタレーションや映像作品の前で立ち止まって経過を見られるようになったのは別の話。
私的小林エリカ作品のベストでありながら、こんなにも美しく放射能の存在を考えさせてくれるものはない。
作家紹介
■小林エリカ
1978年東京生まれ。
※本文中の六本木クロッシングの作品について
※《日出る》2016のテキスト