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編み物クラブのDEI
趣味で編み物をやっています。
先日、英語圏のあるオンライン編み物グループで、英語わからない人が英語の編み図を自動翻訳にかけた時に内容が理解できるよう、略語をちゃんとスペルアウトしてあげよう、という意見が出て論争になりました。
英語の編み図に出てくる略語とは、たとえばこういうやつです。
k2tog = knit two stitches together = 左上二目一度の減らし目
ssk = slip, slip, knit = 右上二目一度の減らし目
難しく見えますが、記号だと思って慣れると簡単です。
スペルアウトしたら編み図が超読みにくくなる、という意見に対して「どうしてそんなに排他的なの?編み図を見たいのは英語を話す人とは限らないのに。もっと多様性を尊重すべき」→「略語のスペルアウトを強制するのは検閲行為だ」となり、侃侃諤諤….
つまりこれは、「DEIの議論」であり、いまどきの北米社会を象徴するやりとりだなぁ、と思ってしまいました。
編み物略語は、英語ネイティブにとっても、わかりづらい方言です。私が編み物をしながら k3, k2tog, YO, k1, ssk, k1, KFB, と略語を呟いているとき、隣にいるカナダ人夫には意味不明なお経に聞こえているはずです。
英語ネイティブの編み物ビギナーが、「初心者にもわかるように全部スペルアウトしてほしい」と言ったら、自分で略語解説表を調べてください、となるはず。ところが自動翻訳を使うであろう非英語話者に対しては、「スペルアウトしてあげよう!しないのは排他的!」となってしまうのがDEI急進派の思考回路のようです。
良かれと思って言ってくれているのはわかるのですが、すごくズレてます。日本語の場合だと、例えば ssk を slip, slip, knitとスペルアウトして自動翻訳にかけても、「滑る滑る編む」となり、「右上二目一度」という日本語の編み物用語は出てきません。(googleとdeeplで実験。もっと賢い翻訳ソフトもあるかもしれませんが。)
英語ネイティブの皆さんは、日本語の編み図を自動翻訳にかけたときわかりやすい英語になるよう工夫して原文を書け、なんていう無茶な要求は絶対にしないはずなのに、なぜ逆はやってあげて当然と思うのでしょうね?「私たちの気遣いは嬉しいに決まっている」っていう思い込みがあるのでは?これって実はすごい上から目線じゃないでしょうか?
ここは一発、英語ネイティブではない人間が発言すべきかと思い、
「ノンネイティブですが、英語の略語を覚えるのも良い経験でした。自分がラクしたいから原文の書き方を変えてほしい、なんて思いませんよ~。」とコメントしてみました。
自分では建設的なコメントをしたつもりですが、スレッド全体が「政治の話はしない」というルールに引っかかったらしく削除されました。
ここはみんなでまったり編み物を楽しむ場所でしょう?なんでもかんでも政治の話になるのは、もううんざり!!とグループを抜けてしまう人もいました。
隣国トランプ政権による「DEI廃止」に戦慄する私たちは、編み物クラブにまで浸透してしまった「DEIが社会に不毛な分断をもたらす」という現象をよくよく考えてみなければなりません。
DEIは現代社会に不可欠な理念なのに、「略語をスペルアウトをしないのは非英語話者に対する差別だ」というぶっとんだ言い分にも使われてしまうのです。
DEIに反対するのは無教養で偏狭な人々である、と思っている自称「プログレッシブ(=進歩的)」な人たちに私は聞いてみたい。ヨーロッパ人がアメリカ原住民に「良かれと思って」キリスト教文化を押し付けたのは間違っていましたよね?あなたが今「良かれと思って」していることに疑問を抱いたことはありますか?
とても良い記事を見つけたので、貼っておきます。