自律的問題解決とは?(その4)
今回は「外骨格系問題解決」の続きである。
前回までで、外骨格系問題解決は弛緩状態の体に支持と運動の機能をもたらすために使われると述べた。更にそのメカニズムについて説明した。
今回はその弛緩部分を硬くするという問題解決が、新たな問題を生み出すという「偽解決」について説明したい。
前回述べたように脳性運動障害の主症状は弛緩性の麻痺ではないか。弛緩性の麻痺では手脚は水の入った袋のような状態である。これでは動けない。
そこで運動システムが自律的に身体内に体を硬くする身体リソースを探す。神経要素では伸張反射の閾値を下げて伸張反射を亢進させる。筋の粘弾性要素ではキャッチ収縮のメカニズムで筋を硬くする。これによって弛緩部分を硬くすれば支持に使えるし、塊として健側で引っ張って動くこともできるわけだ。
これらの問題は障害後に運動システムが問題解決の作動として生み出した状態だ。
だがそこで硬さの暴走が始まる、と考えられる。元々神経系のように硬さの調節ができるメカニズムではない。時には必要以上に繰り返されて過緊張状態あるいは硬い状態Stiffnessとなる。
動くために「硬くする」問題解決だが、度が過ぎて硬くなり可動域が低下する。動くために余計な努力が必要になり、ちょっとした運動でも発熱や発汗、息切れを伴う。血流が減少し、不快感や痛みを伴うようになる、更に硬くなると動けなくなる・・・・
最初は間違いなく問題解決の作動だったが、これが度を過ごして新たな問題を生み出したのではないか。
心理療法などの分野に参考になるアイデアがある。イジメなどがあると教師が虐めた子どもが悪いと叱る。叱られた子どもは更に陰湿なイジメを生み出して、イジメが更にひどくなる。教師は問題解決のつもりだったが、却って新たな問題を生み出すわけだ。これが「偽解決」と呼ばれる。問題の原因はもっと多要素からなる複合的なもので、虐めた子ども一人に原因を想定しても上手く行かないわけだ。
CAMRでもこの「偽解決」という言葉を借用している。弛緩状態から抜け出すために弛緩部分を硬くしたのだが、この問題解決が新たな問題を生み出す「偽解決」状態になったのではないか。
元々随意的な動きは多少あったのだが、硬さのためにその動きが失なわれてしまう。
上田法という徒手的療法は、脳性運動障害後の硬さを改善する。
そうすると軽・中等度麻痺では、隠れていた運動が現れる。あるいは運動範囲が広がりより滑らかな動きになる。つまり硬さを改善するとより良い動きが現れるわけだ。一方で重度麻痺の方に上田法を実施すると明らかな弛緩状態が露わになってくる。
元々随意的な動きを持っていれば、硬さが改善することで新たなより良い運動が生まれたように見えるが、実際には元々持っていた運動が再現したわけだ。重度の方は元々の弛緩麻痺が重く、随意運動が少ないので上田法で硬さを改善しても弛緩状態が露わになるわけだ。
実は歴史的に見ると、この硬さを改善すると運動範囲の大きい滑らかな動きが出るものだから、この硬い状態や過緊張こそが脳性運動障害のメインの症状ではないか、と医師やセラピストによって主張された時期がある。この話は長くなるのでまた次回に(その5に続く)
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