見出し画像

運動システムの作動の特徴 番外編(その1)

 CAMRでは運動システムの作動の特徴として「状況性」、「課題特定性」、「自律的課題達成と自律的問題解決」の3つを挙げています。他にも作動の特徴はあるのですが、訓練の方法を導き出すのは主にこの三つで十分だと考えています。

 それでも「運動システムには他にどんな作動の特徴があるか」という質問が何回かありますので少し紹介しておきます。

 その一つが「状況に応じたリソース交換」です。

 人や動物では、一つの課題を達成するためにいくつもの異なったやり方で同じ課題を達成することができます。たとえばここからあそこへ行くのに、寝返りでも、四つ脚でも、歩いても、走っても、ケンケンでも、横歩きでも、できるなら逆立ち歩きでもいくことができます。

 人はそのために有り余るほどの運動リソースを持ち、それらの運動リソースを利用して多様な運動スキルを生み出して課題を達成することができるのです。

 その中でも特定の運動課題のやり方を別の運動リソースに交換しても達成可能な運動スキルを生み出すのがこの特徴「状況に応じたリソース交換」となります。これだけでは少し分かりにくいので具体例を挙げましょう。

 たとえば「歩く」という運動課題を考えてみます。人はもし片脚を失っても、両上肢と松葉杖で歩くことができます。これは失われた「片脚」という運動リソースを、両上肢と松葉杖という運動リソースに交換して「歩く」という運動課題を達成することができます。もちろん失われた片脚の代わりに義足という運動リソースを用いて歩くこともできます。

 あるいは強盗に襲われて両手を縛られ、猿ぐつわをはめられてしまいます。あなたはスマートフォンが床に転がっていることに気がつきます。強盗達はそれに気がついていません。金目のものをあさるのに夢中です。

 でも手を使えません。そこで靴と靴下をもう片方の脚などを利用して脱ぎます。そうして足の指で110番してその場の状況を伝えます。そしてなんとか警察を呼び、強盗達を捕まえることができましたとさ、めでたし、めでたし・・・・

 つまりある運動課題を達成するために通常決まった運動リソースを使いますが、その特定の運動リソースが失われても、別の運動リソースを探し、利用して課題を達成するための運動スキルを生み出して課題達成を可能にするのです。

 前から言っていることですが、課題を達成するのは筋力などの運動リソースではありません。その運動リソースを利用して課題達成するための「運動スキル」が課題を達成するのです。人は状況に応じて適切な運動スキルを無限に生み出すことができるので様々な状況変化に対応することができるのです。

 最近はロボットの進化に驚くことがあります。でもロボットが持っているのは運動リソースだけです。状況に応じて作動を変化できますが、それは条件に応じて作動を切り替えるプログラムなどによります。
 もっともロボットの運動リソースは貧弱です。歩行ロボットも歩く以外の移動方法を実現するような豊富な運動リソースも持っていません。

 そしてプログラムも基本的には運動リソースです。条件に合った反応しかできません。AIも過去の様々な知識や方法を学んで、その中から選び出すだけです。新奇な課題ではその場で課題達成のための運動スキルを生み出すことは、今のところAIには不可能に思えます。

 人の場合は、状況に応じてその場で利用可能な運動リソースを探し出し、それらを利用して必要な課題を達成するための運動スキルをその時、その場で生み出し、修正しながら課題達成を遂行することができます。

 これが「状況に応じたリソース交換」の作動の特徴です。

 これから導かれるリハビリの方法は、すでに現場で普通に使われています。義足や杖などの利用、そして利き手交換,口で棒を加えてキーボードなどを操作するなどです。

 セラピストも患者さんも生まれながらに様々な利用可能な運動リソースを見つけては利用して、課題達成することを繰り返していますので、無意識に様々な場面で訓練に利用されているわけです。人は生まれながらに「運動リソース交換のプロ」なのです。

 それでCAMRではこの特徴に特に焦点を当てる必要はないと考えているのです。

 もし他の訓練への利用方法が引き出されると気づかれたなら教えていただくと助かります。(その2に続く)

いいなと思ったら応援しよう!