人の運動システムの理解の仕方(その2)-2つの視点
従来医療系の学校では人の運動を機械の運動のように理解することが普通です。機械の運動は、その構造と各部の役割を知ることによって理解できるのでした。
たとえば運動システムは皮膚に囲まれた身体です。その中には筋肉が収縮することによって力を生み出します。骨と関節は力に支持と方向を与えます。感覚器は身体や環境内の刺激を受け、その感覚は神経系を通して脳に伝えられます。脳は伝えられた感覚から情報を生み出し、判断し、どう適応的に対応するかは神経を通して筋肉群に伝え適切な運動を生み出します・・・・と簡単に言うとこういう具合です。
学生はこういった理解を解剖学、生理学、運動学、運動生理学などを通して学びます。人体の構造を各部位、各組織、各器官の役割を理解するわけです。つまり人体の設計図を習うわけです。
こうして「人の運動システムはどう作動するか?」と聞かれれば、学校で習った要素還元論の視点からは、「人の運動システムは、機械のように筋や神経、脳などの各部位、各組織、各器官がそれぞれの役割を決められた通りに果たすという作動をしている」と説明できるかも知れません。
ただどう控えめに見ても、人のからだは機械とは違うのではないか、果たして本当に人のからだはそんな機械のように決められた役割を果たしているだけなのだろうか、と感じる人も多いと思います。
よく考えれば人と機械ではまったく異なった作動をしていることはすぐに分かります。
それでも人を機械として見るこの見方は医療の分野では非常に有用・有効です。
たとえば病気になった場合を考えてみましょう。息切れ、夜間呼吸困難、動悸、痛み(胸・背中・のど・腕)、むくみ(浮腫)、高血圧、顔面蒼白などが見られます。
そうすると人体の設計図から心臓の働きが悪くなっているかもしれない、と仮説を立てます。検査をして間違っていればまた別の仮説が立てられます。このように様々な仮説を立て、検査をして原因を特定することで治療ができます。これは各器官の役割が分かっていて、現れる病気のメカニズムをよく理解しているからです。
そして薬を投与して心臓の働きを元に戻そうなどします。原因によっては手術をして心臓の構造を治したり、治すことができないときは心臓の交換手術を行ったりすることができます。
リハビリも同じで、肘が曲げることができないと、肘を曲げる筋肉の筋力低下か、肘関節が固まっているか、肘を曲げる筋肉への神経が切れていないか・・・などといろいろな仮説を立てることができます。そして検査をして、筋力低下が発見されると筋力強化をしたりするわけです。
人体をロボットの様に構造と各部位、組織、器官の役割を理解し、人体の設計図を持つことで、問題の原因に関する仮説をいくつも立てることができます。そしてその仮説に沿って検査し、問題を解決する一連の流れがわかりやすく理解されるわけです。
こうして医学やリハビリ医学は成果を上げて世界からその存在価値を認められてきたわけですね。
それならこの「要素還元論」の視点だけで良いではないか、といわれそうです。
でも運動を専門に扱う医療的リハビリテーションの分野では、どうもそうはいかないのです。人の運動をロボットの様に考えていると色々な矛盾が生まれ、変なリハビリテーションのやり方が生まれてきたりします。(その3に続く)
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