自律的問題解決とは?(その3)
前回は、運動システムの自律的問題解決の基本的なやり方である「探索利用スキル」を紹介した。
運動システムが何か必要な課題を達成しなくてはいけないとき、あるいは課題達成に問題が発生したときは、いつもこのやり方が現れる。つまり「身体の内外に利用可能な運動リソースを探し、課題達成のためにそれらの運動リソースの利用方法である運動スキルを生み出して課題を達成する」というわけだ。
運動システムはこのようにして課題達成したり問題解決したりするが、この結果生まれた問題解決は主に5種類に分類されるようだ。(まだ検討中である(^^;))
以下の5つである。
①外骨格系問題解決
②不使用の問題解決
③骨靱帯性問題解決
④健康時の問題解決
⑤安心確保の問題解決
以下、順に説明してみよう。
①外骨格系問題解決
麻痺などで身体が弛緩状態になると支持や運動ができなくなり、動けなくなる。そこでエビやカニ、昆虫などの外骨格系動物のように弛緩部分の筋群を硬くする。そうすると支持や重心移動などができて動けるようになる問題解決を「外骨格系問題解決」と呼ぶ。
脳性運動障害では、麻痺の重度さや分布具合に応じて全身的、あるいは部分的によく見られる。片麻痺患者さんでは上肢の屈曲位肢位や足部の尖足位肢位などがその例である。
筋を硬くするメカニズムとしては、体の中にある利用可能な「筋を硬くするリソース」を総動員して何とか弛緩した体を硬くする。
たとえば伸張反射の閾値を下げて伸張反射がでやすくすれば、筋は多少収縮する。
また体を硬くするメカニズムとして有力な説は二枚貝の平滑筋に見られる「キャッチ収縮」と呼ばれるものだ。通常カルシウム濃度が上がるとミオシンとペクチンが滑り込み、筋の収縮が起こる。しかし、ある一連のタンパク群の影響で、カルシウム濃度が下がっても収縮が解けずにそのまま収縮状態を維持する。これがキャッチ収縮で、エネルギーを消費しない収縮形態ということで知られている。またこれには電気活動が伴わないので筋電図活動が見られない。
実はこのキャッチ収縮を起こす一連のタンパク群と同様のものが骨格動物の横紋筋にも存在することが分かっている1)。
というのも1980年代にDietzらの発表した論文2)では、足関節の背側可動域が保持されていても尖足歩行をしている脳性麻痺児と成人片麻痺患者で、筋電図活動が調べられた。尖足位で歩いている患者の立脚期には腓腹筋の筋電図活動が見られなかった。
Bergerら3)は片麻痺患者の歩行中の両側アキレス腱の張力発生を調べた。立脚相の間、患側腓腹筋は張力を発生していたが、やはり筋電図活動は見られなかった。これらの例では筋電図活動が見られないにも関わらず、張力が発生していたことを示している。
そのほかにもキャッチ収縮はタンパク質による現象になるので温度を上げると解けるのだが、臨床家の多くもご存知の通り、片麻痺後の硬さもお風呂などに入って暖めると緩んでくる。色々とキャッチ収縮の説明が上手く当てはまる。
さて、そういう訳で、システム論を基にしたCAMRの立場では、「体を硬くする」という現象は、脳卒中の直接の症状ではなく、「動くために運動システムが行った問題解決」だということになる。
結果、弛緩した部分は硬くなって一つの塊となり、健側の動きについてくるようになる。
上肢は屈曲姿勢で硬くなる。衣服の着脱などは難しくなるが、弛緩状態でブラブラ揺れてバランスを崩す原因になったり、ものにぶつかったり、腕が引っかかって肩関節を痛めたりということはなくなる。また腕が体の中心あるいは健側に近づくことで、重心を健側に寄せてバランスをとりやすくなる。
下肢では、もちろん支持性が上がって、立ったり歩いたりができるようになる。
外骨格系問題解決の説明はもう少し続く。(その4に続く)
1)盛田フミ: 貝はいかにして殻を閉じ続けるか?-省エネ筋収縮”キャッチ”の制御と分子機構. タンパク質 核酸 酵素 Vol33 No8, 1988.
2)Dietz V, Quintern J, et al.: Electrophysiological Studies of Gait in Spasticity and Rigidity. Brain, 104:431-449, 1981.
3)Berger W, Quintern J, et al.: Pathophysiology of Gait in Children with Cerebral Palsy. Electroencephalography and Clinical Neurophysiology, 53:538-548, 1982.
3)Berger W, et al.: Tension development and muscle activation in the leg during gait an dysplastic hemiparesis: in dependence of muscle hypertonia and exaggerated stretch reflex. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 47:1029-1033, 1984.
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