CAMRの流儀 その4
前回までは運動システムの「状況性」という作動上の特徴とそれによって分かるリハビリの内容について説明しました。今回は「運動は必要とされる課題によって生まれる-課題特定性」という作動上の特徴について説明します。
人の運動はどのように生まれてくるのでしょうか。
まずは人の運動システムはその人にとって必要な運動課題を達成するために作動します。当たり前と言えば、当たり前ですね(^^;)そしてその人がどのような状況と環境に置かれているかが重要です。(CAMRでは通常「状況」と言うときには状況には「環境」が含まれていますが、説明をわかりやすくするためにここでは分けて表現します)
たとえば家にいてお腹が空けば、台所に歩いていくと思います。外出中でお金があれば食堂を探して歩き始めるかも知れません。あるいは会社に弁当が置いてあると会社に戻る方法を選ぶかもしれません。
いずれにしても意識しているかどうかは別にして「やるべき課題」があればそれに従って行動や運動が形作られます。このように「課題よって運動が生まれる」という作動上の特徴は「課題特定性」とCAMRでは呼びます。
つまり「運動は必要な課題達成を通して生まれ、修正される」訳です。もっと言えば課題達成に向けて利用可能な運動リソースを探して,それらを利用して運動スキルを生み出すわけです。
この特徴も機械と比べるとより鮮明になります。
機械では生まれる運動は、最初に組み込まれた機能によって特定されます。タイマー付きの炊飯器は、お米を炊けますし、時間を指定して炊くこともできますが、それだけです。炊飯器のスイッチが入れられたけど、米と水が入っていないので「今日はスイッチをオンにしない」なんてことはしません。最初に組み込まれた「機能」によってできる運動、できることは特定されてしまいます。それで機械の運動は「機能特定的」です。
一方人の運動システムは、「状況性」で見たように十分すぎるほど豊富な運動リソースを持ち、多様な活動を基にした適切な運動認知を持って、柔軟で実用的な運動スキルを生み出して様々な生活課題を達成することができます。
初めての運動課題でも何とか達成するための運動スキルを生み出して達成することもあります。あるいは学習を重ねてできるようになったりします。これらが可能なのは運動を無限に生み出し、修正し、新しい運動スキルを生み出すことができるからでした。
この運動を無限に生み出し、修正し、新しいやり方を発見し、熟練・学習する能力があるからこそ、その時々で必要な運動課題を達成するための運動スキルを生み出すことができ、必要な課題を達成できる訳です。
従ってCAMRのリハビリ・アプローチも基本的には「課題」を中心に構成されることになります。
従来は人を機械のように見て、脳もコンピュータの様に考えて、セラピストが「正しい運動の感覚を脳に入力する」といったアプローチもありました。この枠組みでは「患者さんは「セラピストの教える運動感覚をおぼえて実施できるようになることが運動学習である」などと考えられます。
でも運動システムにとってみると他人によって動かされる経験は何の意味もありません。運動システムにとってはその人、その身体にとって必要な課題を達成するために、自ら運動リソースを探索し、課題達成の運動スキルを生み出す過程こそが意味のあるものです。
セラピストの押しつける「正しい運動感覚を憶える」という課題は運動システムには通常意味も価値もないのです。もちろん患者さんの意識が「健常者の運動を身につけたい」と強く思うと運動システムがある程度従って努力することはあります。でも運動システムが運動スキルを生み出すもう一つの条件があるのです。
それは「達成するべき課題が、なんとか達成可能な課題である」ということです。達成不可能では、どんな動きをしても価値や意味を生み出すフィードバックも得られません。「生身で空を飛ぶ」という課題は、運動システムになんの意味や価値も生み出さないし、そもそも利用可能な運動リソースもないので運動スキルの生成にはなりません。
つまり「正しい(健常者の)運動感覚をおぼえる」という運動課題は、当然麻痺があるので健常者の様には動かせません。運動システムには「いつまで経っても達成不可能である」という意味しか生み出さないのです。
だからこそCAMRのアプローチでは、セラピストと患者さんが話し合って何をするべきかという「運動課題の設定」が非常に重要なのです。
その条件は上で述べた二つです。もう一度繰り返します。一つは患者さん本人にとって「意味や価値のある課題」であり、もう一つは「何とか工夫したりすれば達成可能な課題である」ということです。
CAMRのアプローチはこの二つの条件を充たすよう十分に考慮された運動課題を中心に行われます。
次回は「意味や価値のある、工夫すればなんとか達成可能な運動課題の設定」の具体的な説明をします。(その5に続く)