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人の運動システムの理解の仕方(その5)-2つの視点


 さて、今回からシステム論の視点について説明します。
 学校で習う要素還元論の視点では、「目に見える身体の構造や各部位・組織・器官の役割に焦点を当てて人体の設計図として理解する」と述べました。

 一方システム論の視点は、目に見える構造や役割ではなく、システム全体の作動の特徴に焦点を当てます。

 分かりやすいようにまた人の運動の作動の特徴をロボットと比べてみましょう。
 まずオモチャの歩行ロボットの様子を見てみます。スイッチを入れてテーブルの上に置いてみます。オモチャのロボットはそれこそ「歩いている」としか表現のしようが無い運動で進んでいきます。そこでその前に十円玉を置いてみます。するとオモチャのロボットは十円玉を踏んでバランスを崩し仰向けに転倒します。そして先ほどまで「歩いている」と表現した運動を続けています・・・・

 一方、あなたの歩行を想像してみましょう。あなたは家の廊下をゆったりと歩きます。突然の停電があり、真っ暗になりました。するとあなたは立ち止まり、片手は壁において、片脚を前に伸ばし左右に動かして前方を探りながら進み始めます。「先に段差があるはず・・・」
 何とか玄関に辿り着きます。玄関も真っ暗です。足探り、手探りで三和土(たたき)に座って靴を履き、ドアを開けます。外はまだ薄明かりの夕暮れです。
 玄関外の不規則な踏み石のアプローチを一歩一歩進み、門をでると雨上がりの水溜まりが道一杯に広がっています。あなたはつま先立ちになって、水溜まりの浅いところを探し、「えいっ」と大きく踏み出し、そのつま先で片脚立ちになり、次の浅いところを探しては一歩ずつ踏み出していきます。
 水溜まりを過ぎると急な下り坂があります。あなたはやや後ろに重心を移動して一歩一歩ブレーキをかけるように下っていきます。
 その先に繁華街があります。あなたは行き交う人とぶつからぬように、横向きに進んだり、後ろに下がったり、時に立ち止まり、時に斜めに急ぎ足で人混みをすり抜けていきます・・・・

 両者の歩行運動を比べると人の運動システムの作動の特徴が明確になりますね。オモチャのロボットは結局同一の運動をひたすら繰り返すシステムです。十円玉の外乱に対応したり、倒れた後に運動を止めたりはしません。

 一方人の運動システムは、状況に応じて、運動を変化させ、移動という機能を維持するシステムであることがわかります。
 世界の環境や状況は無限に変化します。その無限の変化の中で、移動の機能を維持するために運動を無限に変化させている訳です。
 CAMR(カムル)では、この状況に応じてその場で無限に運動を変化させる作動上の特徴を「状況性」と呼んでいます。

 そうするとこのような「状況性」という特徴を支えている「人の運動システムの仕組みとはなにか?」と考えることができます。これは要素還元論でいっているような見た目の構造とは違います。「状況性を生み出すシステムの能力とは?」と言った方がわかりやすいかもしれません。

 すると「状況変化に応じて、その状況を理解・予期し、適切で柔軟な運動変化を起こすための多様性と創造性」が必要ではないかと考えられますね。これは「予期的知覚」と「無限の運動変化を生み出す能力」と言い換えることもできます。
 「予期的知覚」は様々な状況の中で、様々な課題を達成する経験の中で身につけられるものです。
 「無限の運動変化を生み出す能力」とは、豊富な運動リソース(運動のための資源)を持ち、創造的な運動スキル(課題達成のための運動リソースの利用方法)を持つことです。

 そうすると学校で習うような「悪いところを見つけて治す、元に戻す」とは別の治療方針を持つことができます。詳しくは次回に。(その6に続く)

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