吉田豊 1stAlbum「僕のお気に入り」
パーカッショニスト吉田豊の音楽人生55年の集大成となるアルバムです。
サンバ界のレジェンドとして、77歳になる現在も高い評価を得ている吉田豊ですが、このアルバムではサンバ(ブラジル音楽)にとどまらず、幅広いジャンルの音楽を取り上げて意欲的な音作りに挑戦しています。
何曲かには本人の歌唱による楽曲もあり、多分当人は恥ずかしさでいっぱいだったでしょうが、けして上手とは言えないその歌声に、ふとネルソン・カヴァキーニョを彷彿とさせるようなベーリャ・ガルダ(Velha-Guarda)風の味わいを感じ取ることができます。
実は僕は、彼とかなり長い期間、音楽的時間を共有しました。四谷のブラジル料理店「サシ・ペレレ」で初めてブラジル音楽のユニットに参加したとき、彼はすでにそこにいました。天才ギタリスト故佐藤正美と三人で、おそらく日本で最初のサンバユニットだったでしょう、毎日のようにライブを行いました。
そこでの演奏を通じて長谷川きよしの「サンデー・サンバ・セッション」への参加、TBSラジオの「ハニー・サウンド・オン・ライブ」への出演などで多くのすぐれた音楽家たちと出会い、(今回のアルバムのプロデュサー平野融氏との出会いもその頃であったと記憶しています)、二人で一緒にブラジルを旅行し、揃ってロス・インディオスに加入し、グラシエラ・スサーナの公演に帯同して全国を巡り、その後「オパ」の創立メンバーとして共に参加しました。
オパ設立時、彼はまだロス・インディオスのメンバーだったのですが、僕の「サンバでメシが食える話があるんだけど?」という悪魔の囁きにホイホイと乗ってしまったのです。そのままロスインにいれば、すぐそのあと「別れても好きな人」の大ヒットでスターの仲間入りができたでしょうに・・・
吉田豊は、アグレッシブな太鼓を叩く割には(例えばライブでお客さんに可愛い女の子が入ってくると急に音量が二倍になるとかwww)、実像は大変控えめで地味で職人気質の音楽家です。
打楽器をいかに「鳴らす」か、そのことにひたすら注力し、研鑽と修練を怠りませんでした。
彼のパーカッションがいかに深いビートを紡ぎだすか、ということは一緒にプレイした音楽家たちが一番よく知っています。
ブラジル音楽に魅せられてその道一筋に歩んできたとはいえ、彼の凄さはその狭いジャンルにとらわれず、プロとして様々な他ジャンルの音楽に関わって来た、そして今も関わっていることです。
このアルバムは、ナマの吉田豊の音を聞いている人にとっては「ちょっとお行儀が良すぎるかな」と聞こえるかもしれません。しかし「僕のお気に入り」としてピックアップした収録曲はどれも意欲的なパーカッションの組み合わせ、そして「音」にこだわる彼ならではの心地よい打楽器がレコーディングされています。
レコーディングに参加したアーティスト、音響(滝口実氏:故人)もそれぞれ良い仕事をしています。
彼がその長い演奏活動を通じて出会った様々な音楽や人々、それに対する思いや感謝を込めたCDになっている、と感じました。
※ネット購入は、下記サイトより可能です。
https://www.oto-lab.club