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『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』と、86歳のやたら元気な老人
その胆力はどこからくるのだ
リドリー・スコット最新作である。前作『グラディエーター』は2000年公開で、実に24年ぶりの続編である。それにしても、彼はずっと元気に映画を撮りつづけているな~と感心して、試しに年齢を調べてみたら86歳だった。いやーすごい。もし仮に私が86歳まで生きられたとしても、もう牛乳瓶のフタすら開けられないぐらい弱っているのではないか。たぶん、生きる元気が残っていないもの。映画を1本撮るってどれだけたいへんなことか。それにしたってリドスコえげつないな……と感心しつつの『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』鑑賞であった。
舞台は1世紀後半から2世紀。領地拡大を広げるローマ帝国は、さまざまな土地を暴力的に征服していった。とある辺境の地で安らかな生活を送っていたハンノ(ポール・メスカル)は、ローマ帝国の侵攻によって妻を失い、みずからも捕虜となる。戦争捕虜は、市民の娯楽として闘技場で戦わせられ、使い捨てられるグラディエーターになるしかない。ハンノは戦闘能力の高さから、グラディエーターの手配師マクリヌス(デンゼル・ワシントン)に見出され、戦士として名を上げていく。ハンノは何者でどこからやってきたのか。彼の出生の秘密が、しだいに明らかになっていく。
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王道だからこそよい
リドリー・スコットのエネルギーはどこから出てくるのか。現代映画に求められるスピード感や編集のテンポも踏まえつつ、時代性をともなったテーマや価値観(フェミニズムやポリティカルコレクトネス)を完全におさえた作品を量産してくるその胆力。作風が古びていないどころか、その自己更新のスピードにおいて若手を牽引すらしている。そんな86歳いる? と感服した次第である。本作は、いわゆる「英雄の旅」として定番のあらすじ(行きてし帰り物語)であるが、観客をしっかりとハラハラさせ、共感させ、盛り上げていく手腕のたしかさに圧倒された。あらすじがどうなるかは、あるていど読めてしまうのだが、それでも映画は充実しているのが実にいい。
たとえば冒頭の戦争シーンで、巨大な鉄球を投石機で飛ばし、それが船に直撃する瞬間の視覚的快楽はどうか。またマクリヌスが、いかにも策士という雰囲気で周囲の機嫌を取ろうと、わざとらしく笑う場面も忘れがたい。アカシウス(ペドロ・パスカル)とルッシラ(コニー・ニールセン)の会話を盗み聞きする、あやしげな侍女の姿を挟み込むショットの胸騒ぎも印象的だ。細部がどれも輝いている。こうした要素すべてが、骨太のストーリー展開と絡み合って、いい映画を見たという満足感を与えてくれるのだ。また、テーマが期せずして昨今の政治状況を反映しているように感じられるのもよかった。劇中、何を血迷ったかお猿さんを首長にしてしまう皮肉は、悲しいくらい現代的であるように感じた。
【グラディエーターのみなさんもスキンケアした方がいいと思います】