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『キャッシュトラック』と、あんまりチャラくない先輩

無敵の警備員ステイサムの大暴れ

ガイ・リッチー監督の新作は、彼との共作が多い俳優ジェイソン・ステイサムを起用したクライム・アクション。これまで両者は『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)『スナッチ』(2000)『リボルバー』(2005)と3作品でコンビを組んでいます(ガイ・リッチーが制作総指揮で参加した、2001年『ミーン・マシーン』除く)。『キャッシュトラック』は低予算の作品ですが、無敵の警備員ジェイソン・ステイサムの大暴れを堪能できる痛快なフィルムです。舞台はロサンゼルス。現金輸送を専門とする警備会社に入社した男性、通称 H(ジェイソン・ステイサム)。やや無愛想な男性でしたが、警備の仕事では驚くべき成果を上げ、あっという間に注目を浴びます。彼は何者なのか? Hがこの仕事を始めたのには、どうやら隠された真の理由があるようでした。

ステイサムが顔色ひとつ変えずに目的へ向かって突き進む様子に、最後まですっかり夢中になってしまった私でしたが、考えてみれば本作では、いわゆる「ガイ・リッチーらしさ」はかなり抑えられています。時間軸を行きつ戻りつしていくうちに事態の全貌が見えてくる構成はいかにも彼らしいのですが、過去作で特徴的だった、笑いを誘うようなせりふや展開、DJ的センスを感じさせる選曲、粋なファッションや凝ったカメラ構図などの要素はほぼ見られません。本作は、2004年のフランス映画『ブルー・レクイエム』にヒントを得たとのことですが、クライム・サスペンスを重苦しいトーンで展開させる映画的マナーに沿って撮られており、主人公の怒り、悲しみが狂気じみた行動へ結びつくストーリーは実に重苦しく進んでいきます。クライマックスで繰り広げられる大強奪作戦まで、さあどうなるかと期待が膨らむ構成により比重が置かれていました。

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いつもはもっとチャラいのに

個人的には、ガイ・リッチーが監督としてのキャリアを重ねるほどに磨きをかけていく軽薄さ、身も蓋もないチャラさに惹かれています。なぜここまで軽いタッチのフィルムが撮れるのかとあきれるような映画が見たいし、そこにこそガイ・リッチーの妙味があるように思うのです。思うに彼のチャラさは、2015年の『コードネーム U.N.C.L.E.』でその極に達しているのですが、同作劇中、仲間が激しい戦闘に巻き込まれるなか、仲間に目もくれずサンドイッチにかぶりつく男と、その背後で流れる楽曲 "Che Vuole Questa Musica Stasera" との鮮烈なコントラストは忘れがたいものがあります。彼の手にかかれば、命を賭けたやり取りも、遊戯のような軽やかさに変換されてしまうのです。まるでオシャレな不良の先輩が貸してくれたカッコいいレコードを、ドキドキしながら聴くときのような感覚を、『コードネーム U.N.C.L.E』から感じ取ったものでした。私は、実写版『アラジン』(2019)の主人公を、ストリートワイズなチンピラとして魅力的に、チャラく描いてみせたガイ・リッチーのスタイルが好きなのです。

しだいに物語の全容が見えてくる時間軸の往復は実にテンポがよく、ドローンを使った意外性のあるカメラの動きもまた印象的でした。くわえて、銃撃戦の迫力や、誰もが裏切り者のように見えてしまう脚本のスリルも楽しむことができました。本作における主人公は、無敵で絶対に死なない上に、必ず目標を倒す超人のような存在なのですが、ほとんどピンチすら訪れない異形の強者ぶりが作品の痛快さにつながっている展開も好みです。観客に「ステイサムが死ぬわけがない」と思わせることが、作品の興奮をより高めているのです。本作を存分に楽しんだ私として、実際のところ不満はまったくないのですが、いつもはチャラい先輩が、急にマジメな態度に変わってしまった様子を見たようで、そこだけが少しさみしく感じてしまったりもしました。

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