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『テリファー 聖夜の悪夢』『アイ・ライク・ムービーズ』

『テリファー 聖夜の悪夢』

ホラー作品である。血がたくさん出て、人の腕や足がいっぱいちょん切られる、言ってしまえばそれだけの映画なのだが、本作にはなにか確固たる意思がある。「チェーンソーで人の身体を半分に切っているときにのみ、映画の真実が立ち現れるのだ」といわんばかりの信念が伝わってくる。とはいえ映画は高邁な思想とはまるで逆であり、「人をちょん切る場面」と、「次に人をちょん切る場面までのつなぎ」のふたつだけで構成された作品ではあるのだが、本作はアメリカで驚くべき大ヒットを記録しており、なにか「おもしろい映画の核心」のようなものをつかんでいる可能性がある。

気になるのは、妙におちゃらけたジェスチャーが特徴の殺人鬼である。せりふはなく、いっさいの声を出さない、無声映画のようなキャラクターだ。彼はコミカルな動きで人をあやめてまわるのだが、コミカルさによって内面が見えにくくなり、いったい何が動機なのかがよくわからなくなってくる。そこが不気味で印象に残り、おもしろかった。こんなに意思の見えにくい登場人物はあまりいない。願わくば125分の上映時間を100分くらいにタイトにできればよかったが、監督はおそらく、人をちょん切るシーンはじっくり見せたかったのだろうと思う。

『アイ・ライク・ムービーズ』

舞台は2003年のカナダ、大学進学を控えた映画オタクの青年ローレンス(アイザイア・レティネン)は、学費を捻出するためにレンタルビデオ店でアルバイトを始める。しかし主人公は精神的に幼く、自分が世界の中心だと信じて疑わないため、周囲に対しても失礼な発言、身勝手な言動を繰り返してしまう。レンタルビデオのアルバイトはわりと性に合っていたものの、彼の高校生活はなかなかうまくいかない。親友のマット(パーシー・ハインズ・ホワイト)や、バイト先の店長アラナ(ロミーナ・ドゥーゴ)は主人公に親切にしてくれる優しい相手だったが、恩をきっちり仇で返すナルシストぶりで信頼を失ってしまうのだった。

なにしろイヤな主人公である。こりゃ仲良くなれないぞ、と思いながら見ていたが、よく考えたら私もかつてはこのような人間だったような気がする。なんというか人を軽蔑する速度がはやい。知り合って数分で、さっそく軽蔑モードに突入してしまうのであって、その見下し感が相手に伝わっているのが見ていてハラハラしてしまった。でも若いってこういうことよね。とはいえ後半の展開、そして成長とは何か、という結論のつけ方がとてもよくて、いい映画だなと納得してしまった。家からレンタルビデオ店までを移動するショットがよくて、青春映画のきらめきを感じた。見終えて、この主人公は40歳になったとき、何をしているのか知りたくなった。たぶん、お風呂でシャンプーしているときに、急に過去の自分の言動を思い出して「ウワーッ!」と叫んでいると思う。

【アイ・ライク・スキンケア】

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