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ヒア・カムズ・ザ・サン
ここ最近、朝に目が覚めると頭痛がするようになった。起きがけに頭痛など、普段ならイラッとしそうなところだが、いまの私は嬉しさが勝っていて、「あっ、いいですねー頭痛」と町をあげての歓迎ムードである。ウェルカム頭痛。頭痛がする=気圧が下がっている。気圧が下がる=気温が高くなっている。ようやく春が来たのだ。春の訪れを身体で感じつつ、冬の厳しさから脱出できたのだとはずむような気持ちになった。頭が痛いのはお薬でどうにかなる。春さえ来れば、たいていのことはどうにかなるのだ。
2021年の12月から、2022年の3月初旬まで、この冬の寒さは本当にこたえた。ここ数年は暖冬が続いており、冬のつらさを感じたことがあまりなかったが、去年の12月以降、私はほとんど何もできない状態だった。自分がこんなに寒さに弱い人間だとは思わなかった。これは年齢による身体の衰弱なのだろうか。自分の怠惰さに情けなくなるのだが、あまりに寒いと生活の基本的なことができなくなる。水回りの掃除、部屋の整頓、スポーツジムでの運動。日々を健康にすごすために必要なあれこれが、「寒いから」という身も蓋もない理由だけで延期されていく。自分でもよくないとわかっているのだが、どうしようもないのだ。また、体温を上げようとする意識なのか、必要以上にごはんを食べてしまうのも困った。かといって寒くてジムに行く気は出ないので、せっかく減らした体重もまた増えてしまった。
先週、気合いを入れて風呂掃除をし、隅々まで汚れを落としたが、「いままでこんなに汚れてたのか、よく平気だったな」と情けない気持ちになった。寒いから、もう風呂が汚れてようがどうでもよかったのである。どうしてこんな投げやりな気持ちになっていたのか、寒さとはおそろしいものだ。掃除するより布団に入って寝たい。暖房をつけても、元の気温が低いので、「顔色の悪い人をむりやりメイクでごまかした」みたいな感じがどうしても出てしまうのが気に入らない。ナチュラルに空気があたたかい状態がほしい、とわがままな要望が出てくる私。あたたかさの選り好みが激しいのだ。あわせて、日が短く、すぐに外が暗くなってしまうのもイヤだった。いまは17:30をすぎても外が明るい。それだけで嬉しいのである。
高校生のころ、ビートルズの「ヒア・カムズ・ザ・サン」を聴いて、太陽が照ったくらいで曲作れるのかと不思議に思ったものだが、いまの私は、ぽかぽかした陽気や日差しがとにかくありがたい。曲が作りたくなる気持ちもよくわかる。これからようやく何でもできるぞと、元気がみなぎっている。風呂もぴかぴかだし、床に置きっぱなしだった不用品も片付けた。あんまり嬉しくて、私がミュージシャンなら1曲作ってしまうところだ。私はミュージシャンではないので文章を書いている。何も考えずにパーカー1枚だけ着て外に出られる。部屋がすっかりキレイになっている。ああ、春っていいなあ。