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世間のスニーカーブームがいきなり終わってしまったのですが

スニーカーに熱狂した日々の終わり

2023年、驚くべきことにスニーカーブームが終わってしまった。本当に終わったのだ。これはなにも「私自身がスニーカーに飽きてしまった」「マイブーム終了」という意味ではない。世間的に、そして何人かの識者の意見によればおそらく全世界的に、あれほど熱狂的だったスニーカーブームがいきなり終焉してしまったのである*1。店頭には買い手のない製品が積まれ、メーカーはセールを連発し、ショップは次々に閉店し、新製品を買うための行列はなくなった。スニーカーショップ「atmos」を立ち上げた本明秀文氏(現在は退社)と、ディレクターの小島奉文氏は、スニーカーブームは2014年あたりから本格的になり、それ以降はずっと右肩上がりだったと語っている*2。約8年から9年のあいだ、人びとはスニーカーの争奪戦に明け暮れ、寝ても覚めてもスニーカーに夢中であった。レア製品の転売額は、二次流通市場で元値の40倍、50倍に跳ね上がり、ファンはスニーカーに途方もない額を注ぎ込んだ。この熱狂的な祭りはいつまでも続くものと思われた。それが今年になって、線香花火が消えるみたいに急に終わってしまったのである。先日はこんなニュースが流れた。

スタージョイナスは2005年8月、ロサンゼルスに拠点を置くアンディフィーテッド社と日本総代理店契約を締結。翌2006年に国内1号店となる「UNDEFEATED静岡」をオープンすると、2号店を東京、3号店を大阪に出店するなど全国に店舗を拡大してきたが、2023年に入り福岡、名古屋、静岡、広島と店舗の閉店が続いている。TSIホールディングスの下地毅社長はアンディフィーテッドとの契約終了の理由を「スニーカーブームが落ち着いたため」と説明。「現在新たなブランドとの代理店契約を検討している。新たなトレンドを作っていきたいと考えているので楽しみにしていただけたら」とコメントした。

2023年07月13日

企業が公式に「スニーカーブームが落ち着いた」とコメントするのだから相当である。実際、スニーカーショップは軒並み閉店している。アンディフィーテッド、SNS(こういう名前のスニーカーショップがある)、MA5。これまでなら瞬時に売り切れていたであろう、ナイキのDunkやAir Jordanといった人気シューズも、店頭では余っている状態だ。しかし、なぜブームは急に終わってしまったのだろうか。私自身、去年の10月にスニーカーを好きになったばかりのド素人であり、ただの新参者だが、たった10ヶ月前であっても、まだシーンにはたいへんな熱があった。過去に比べれば売れ行きが伸びないという話もちらほら出てきてはいたが、それでも新しいスニーカーの発売は一大イベントだったし、店頭には長い行列ができ、そのたび話題になっていた。私はその熱気をおもしろいと感じた。しかし、そこからたった半年ちょっとで、なぜか人びとはスニーカーへの興味を失い、スニーカーを買わなくなってしまった。9年近く続いた熱狂が、一気に冷めていったのだ。こんなことってあるのだろうか。

エルム街の悪夢ダンク

いったい何が起こったのだ?

この半年ちょっとのあいだに何が起こったのか、当のスニーカー業界関係者(ショップの経営者、従業員、メディアの編集者等)ですら理由がわからず、なぜだろうと首をひねっているような状態だ。思い出してみれば、今年の正月、初売りでパンダ(白黒のDunk)が出たとネットで知り、あわてて買いに出かけたが、到着したときには売り切れていた。パンダは大人気のスニーカーで、販売足数も少なく、抽選を20回やっても買えなかった。ところがいま、パンダはどこの店でもかんたんに買える(なんなら買い手がなく余っている)、ごく普通の靴になってしまった。パンダが余るなんて、半年前にはとても考えられなかった。あんなに欲しくてたまらない靴だったのに! なぜスニーカーブームは終わってしまったのだろうか。

  • 供給が過多で、リリースを追いきれない

  • 転売のうまみがなくなってきた

  • 物価高で生活が厳しく、靴を買うどころではない

  • 円安で製品の値段が跳ね上がり、手を出しにくくなった

  • セールの乱発で、定価で買う意味がない

  • 特定モデルに人気が集中し、それ以外の製品の価値がなくなった

  • 靴というより投機商材に近くなっていた

  • 古いモデルの焼きまわしに終始していた

いろいろと理由は考えられる。2021年に定価12100円だったエアフォース1は、2023年のいまでは15400円になってしまった。物価高は全世界的で、アメリカでもスニーカーは売れ残ってしまっていると、先述の本明氏はSNSに投稿している。多くの人が、スニーカーブームが終わってしまった理由について考えているのだが、「これだ」という明確なきっかけがわからないのである。ただ、何か魔法が解けてしまったかのように、あれほど魅力的に見えたスニーカーに興味がなくなってしまったのだ。一度冷静になると、同じパターンを色違いや素材違いで焼きまわしているだけに見えてくるし、なおかつそれが値上がりで定価3万円を超えていたりするのだから、いったい誰が買うのだろうと思うようになった。ついこのあいだまで、アプリに向かって「買わせてください」とお祈りまでしていたのがウソのようだ。

理由は誰にもわからない

単に個人の感想、私的な印象としてスニーカーに興味がなくなったのではなく、その界隈でスニーカーを見たり、ショップに出かけた人なら誰もが、「あっ、この数ヶ月で本当にスニーカーブームが終わったな」という感覚を肌で感じ取っている。今年の5月〜6月くらいには、界隈の誰もがブームの終わりを実感していたと思う。なぜこういうことが起こるのか、不思議でならない。経済評論家であれば、ブームの終焉にそれらしい理由をこじつけることはできるかもしれないが、実際は「よくわからない」としか言いようがないのである。上に挙げたような理由は、個別の要素としては考えられるが、それがただちにブーム終焉に結びつくわけではないのだ。結局のところ、ただ、魔法が解けてしまったのである。しかも、おそらく世界中のスニーカーファンがいっせいに。

ブームの終わり間際に入り込み、その終焉に立ち会ったスニーカー界隈の熱狂は、「何かが終わるときは、こんな感じなのか」という奇妙な体験であった。個人的に気の毒なのは、スニーカーのYouTubeで生計を立てていたマニアたちである。新製品を買うために並ぶ動画も作れないし(そもそも抽選がない)、興味を持って動画を見る人も減っていくだろう。彼らも、これほど急にブームが終わるなんて予想していなかったはずだ。もちろん私もしていなかった。だから動画を作りたくても作れない。彼らはこれからどうしていくのか? 余計なお世話だが少し心配している。たくさんの人が「スニーカーは高すぎて買えないし、セールのときによほど安くなっていたら、そのときに買うかどうか考える」といった状態になったけれど、よく考えてみれば、それがごく当たり前の靴とのつきあい方なのかもしれない。なにしろ定価が高い。私自身、もう割引なしではスニーカーを買えない、お金がもったいないという気持ちになってしまった。スニーカーは楽しいし、興味はあるのだが、数ヶ月に一度、安い製品を手に入れられれば充分だ。それにしたって、なぜ9年近く続いた魔法が、ほんの数ヶ月であっという間に解けてしまったのかだけは、誰にもよくわからないままなのである。

*1 海外のスニーカー事情に関する本明氏の投稿

*2 この動画が出たのが2022年9月1日。しかし、ふたりの会話のトーンはどこか「本当にブームが終わるようなことってあるの?」「さすがに終わりはしないでしょう」という、ブームの終焉に対して半信半疑な雰囲気がうかがえる。

【スキンケアの本出したので読んでください】

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