『ブレット・トレイン』『ビースト』
『ブレット・トレイン』
日本を舞台にした「アクション・コメディ・スリラー(公式の説明)」。スーツケースを盗むという任務を命じられた主人公レディバグ(ブラッド・ピット)が、次々に現れる敵と争奪戦を繰り広げるうちに、新幹線から出られなくなる様子を描く。私の大好きな『ウルヴァリン:SAMURAI』(2013)を連想させるトンチキ日本描写が魅力の、たいへんいい湯加減の娯楽映画であった。こういう作品に出てくる日本は、間違っていればいるほど味が出るのであり、いい映画だなと笑顔で鑑賞できた。どこか『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)を連想させる構成も、これまたちょうどよかった。
海外の人びとにとっての日本とは、新幹線とウォシュレット、富士山、ヤクザと忍者なのだなと痛感する。前述した『ウルヴァリン』もそうだが、劇中一度は疾走する新幹線の屋根に登らないと気が済まないのがアメリカ映画であり、今回もちゃんと登ったし、車中でバトルもした。いいなあ。なぜ海外の方はこんなに新幹線が好きなのか。気に入ったキャラクターはレモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)。すべてを「きかんしゃトーマス」に例えて考える人物だが、キュートな存在感が最後まで光っていた。ブラピは自己啓発かぶれで格言好きな、意識高い系の中年男性という妙な役柄で、仕事でミスした女性に「もっとちゃんと準備しなよ」と言いかけて「これじゃマンスプレイニングだ、よくないよくない……」と反省するシーンが好きでした。
『ビースト』
南アフリカへ旅立った家族がサバンナへ動物見学へ出かけたが、凶暴化したライオンに襲われてしまう。助けの来ない孤立無縁の一家。野獣だけではなく、無法者の密猟者まで登場、敵だらけの土地から脱出できるか……というあらすじ。ライオンとの戦いの前に語られるのが家族の危機で、父親(イドリス・エルバ)は仕事にかまけて家庭を省みないことで、家族からの信頼を失っている。このライオン危機を脱し、家族の絆を取り戻して一件落着と行きたいところである。さあがんばれ父ちゃん、というストーリーだ。南アフリカが舞台ということで、『第9地区』(2010)のシャールト・コープリー(南ア出身)も出演している。
これは『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(2022)を見たときにも感じたのだが、CGの恐竜やライオンが動いても、「まあ、実在しないしナァ」と思ってしまう自分がいて、映画の牽引力という点でやや支障をきたしている気がする。この映画いちばんの恐怖、物語を引っ張っていく源泉となる存在はライオンなのだが、それがコンピュータで作られたデジタル情報だと思うと、どうにも恐怖心が湧いてこないのだ。リアルに動けば動くほど「後からCGを足したんだな」と感じてしまう。『ジョーズ』(1975)の鮫がもたらす恐怖は、それが機械模型として実在したからだったのだろうか。動物や恐竜など、映画における生き物の「どうせCG」問題をいかに克服するかは、わりと難しい問題だと思っているのだが、映画関係者に妙案はあるのだろうか。『NOPE』(2022)に出てくる猿は、そのへんかなり上手くやっていたので、制作者のセンスであるような気もするのだが……。