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空を飛べたら実際どうなるか

子どもの頃、テレビで『スーパーマン』(1978)あるいは『パーマン』(1983〜)を見たときから、私も空を飛べたらいいな、と思っているのだが、実際に飛ぶところを想像すると、意外に不便なのではないかという気がしている。まず寒い。上空は絶対に寒い。空を速いスピードで飛ぶとなると、全身がこごえるような冷たい空気のなかを移動しなくてはならないわけで、そんな寒さにはとても耐えられないような気がする。だから空を飛ぶときは、ヒートテックとか、ダウンとかを重ね着しなくてはならず、手先も冷えるだろうから手袋も必須となり、飛ぶ準備をするだけで結構な時間がかかってしまう。移動速度が上がれば、さらに寒さは増すだろう。身体が持たない気がする。あと空を飛ぶのはたぶん、思ったより疲れる。ランニングで1時間走るのはかなりキツいが、空を30分飛ぶのはそれよりもっと苦しい気がする。

また空を飛んだとして、上空から自分が行きたい目的地をすぐに目視できるか、という問題もある。いま自分がどこを飛んでいるかなんて、空から見てもよくわからないだろうし、「だいだいここかな?」と雰囲気で飛んでしまったら、たぶん見当違いの場所へ到着してしまいそうな気がする。東京スカイツリーとか、牛久の大仏なんかを目がけて飛ぶならわかりやすいが、行き先が「八王子にある友だちの家」だったりすると、空を飛んで、目的地に直線距離で到着するのはかなり難しいと思うのだ。そのため結局、携帯のGPSで現在地の確認をしなくてはならないのだが、上空で携帯は電波を受信するのだろうか。飛ぶ高度にもよると思うが、あまりに低く飛ぶと、たぶん周囲に見つかってしまう。少なくとも上空200メートルくらいの高さは飛ばないと、道を歩いている人から、私が飛んでいるのが見えてしまうような気がするのだ。

この「見つかり問題」は本当に頭が痛い。空を毎日飛んだりしてたら、近所の人にはいずれバレてしまうだろうし、悟られないように目的地に降りるのはたいへんだ。離着陸が見つかりやすく、めんどうなのだ。移動が速いのは便利だが、なにしろ人に見られてしまってはいけないのだし、とにかく着地ポイントを探すのに時間がかかる。他人に知られては社会生活に支障が生じるのだ。例を挙げると、私は映画が好きなのだが、家から新宿のTOHOシネマズまで飛んでいって映画を見ようとしても、誰にも見つからずに空からあのへんに着地するなんて絶対ムリだと思う。地面に降りたところを、キャッチのホストやトー横キッズ、迷惑系YouTuberらに囲まれて、ひどいめにあうに決まっている。見つからずに飛ぶ、となると夜の移動に限られるだろうか。しかし、そこまでして夜に空を飛んで移動したとして、いったいどこへ行くのか。よく考えたら、別に行きたい場所がない。

とはいえ「空を飛ぶ」は世界で誰もできない超絶特技なのだから、これを使ってひと財産を作ることはできまいかと思うのだ。空を飛ぶことをマネタイズするのである。この特技を仕事にするにはどうすればいいのだろう。しかし、飛行能力を使ってお金を儲けるとなると、違法なものを海外から空の移動で運んできて日本でこっそり売る、みたいなことしか思いつかず、さすがに法を犯してまで金が欲しいとは思わない。空を飛べることの利便を、合法的な商売に変える方法がわからないのだ。あー、空が飛べたらお金持ちになれそうな気がしたんだけどな。結果的にたぶん私は、年に2回くらい、気まぐれに夜中ちょっと空を飛んでは「寒いからやめよう」と思って家に帰るような感じのつまらない人になりそうである。そういえば『魔女の宅急便』(1989)のキキも、宅配でニシンのパイを届けるくらいしかしてなかった。空を飛べるようになっても、別にそこまで劇的に人生は変わらないんだなと考えると、なんだかさみしい。

【空は飛べませんが、スキンケアはできます】

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