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The Linda Lindas と苦い思い出

アメリカの女の子4人組バンド The Linda Lindas をSNSで知った。アジア系、ラテン系の4人(10歳〜16歳)からなるパンクバンドである。ディストーションギターをかき鳴らす元気のよさも嬉しいし、歌詞も印象的だ。個性的であること、人種差別の経験、コロナ禍の鬱屈など、どれも2020年代らしいタイムリーなメッセージばかりである。わけても、クラスの男の子から「親から中国人と話すなと言われた」と伝えられ「自分も中国系だ」と答えたところ、その日から距離を置かれたという経験を曲にした “Racist, Sexist Boy” の爆発するようなサウンドにはしびれてしまった。ここには彼女たちのリアルな肉声が感じ取れる。

バンドに関する記事(リンク参照)を読むと、彼女らの両親は、レコーディングエンジニアとして Best Coast や Paramore を手がけていたり、カルチャー雑誌を運営する人物だったりと、音楽的、文化的素養の高い人たち(記事内では culture luminaries と表現)だと紹介されている。メンバーのインタビュー映像からは、古いパンクバンドやマイナーなロックをよく知っていることがうかがえるが、きっと洗練された両親からポップカルチャーの教育をほどこされた子どもたちなのだろう(Best Coast や Paramore も好きだと話していた)。何より、10歳でドラムが叩けるようになるには、ドラムキットを買ってもらい、練習できる場所を用意してもらい、叩き方を教えてくれる人がいなければならず、知識と理解のある両親のもとでなければドラムは習得できない。

あるいはこう書くと、「なんだ、結局は大人が仕込んでるのか」と意地悪な受け取り方をする人もいるかと思うが、10歳の子どもが自分ひとりで何かを習得するなどそもそも無理だし、ある一定レベルの教育を施さなければスタート地点にすら立てない。彼女たちがバンドを組んで演奏ができるのも、両親が時間をかけて楽器の弾き方を教え、オススメの音楽を一緒に聴き、良質な映画や本を与えて応援し続けたからにほかならない。ゼロから何かを自力でできるようになる子どもなどいないのである。YouTube には楽器のうまい子どもの演奏が数多くあり、なぜか小学生の子がTスクエアの曲をドラムで叩いたり、イングウェイの曲をギターで早弾きしていたりするが、親が何かを教えるというのは基本的にそういうものである。親の趣味や傾向が反映されてしまうのは避けがたく、大切なのは、きちんと時間をかけて教えて、楽器が上達したという事実だ。

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私には苦い思い出がある。小学校2年生の誕生日に、親からギターを買い与えられた経験だ。突然楽器店へ連れていかれ、ナイロン弦の張られた、子ども用のクラシックギターを選ばされたのである。なぜギターなのかはよくわからなかったが、買ってもらった日は大喜びで、訳もわからずジャガジャガと鳴らして遊んでいた。しかし、どこを押さえると何の音が出るのかがわからない。父親はコードを知っていたので、弾き方を教えてほしいと伝えた。しかし父親は「どうして俺が教えるんだ? 冗談じゃない」と怒り出してしまい、私はあわてて父親にあやまらなくてはならなかった。調弦の仕方すら覚えないまま、私はすぐにギターを触らなくなったのだが、その後、両親はことあるごとに「あいつはギターも途中で投げ出した。根気がない」と言って私を責めた。

この屈辱体験があってからというもの、親の愛情をたっぷり受けて何かの技術を習得し、小さな頃から才能を発揮している子どもを見ると、それだけでうらやましく、輝いて見えて、うっかりすると泣いてしまいそうになる。両親が子どものために時間をかけて何かを教えるという、その優しさと熱意に打たれるのだ。きっと、The Linda Lindas の両親は子どもがかわいくて仕方なく、日々オススメ文化をひたすら注入していったのだろう。両親は、ある意味ではバンドのプロデューサーのようなものだが、すべての親は子をプロデュースしているともいえる。ああ、私もこんな恵まれた子どもになりたかった。そうして子ども時代の暗い記憶がよみがえるたび、The Linda Lindas はあまりにもはつらつとして見えてくるし、切ない気持ちにさせられるのである。

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