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8月の後半
子どもの頃からずっと感じているのだが、8月の後半は妙にさみしい。何十回経験しても、8月の終わりには何ともいえない喪失感があるのだ。夏が終わるのが悲しくて元気が出ない。暑い暑いと文句を言いながらも、いちばん好きな季節はやはり夏なのである。「涼しくなるのが嬉しい」という人もいるが、私はずっと暑いままでいてほしい。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)の劇中で、セカンドインパクトという大災害が原因で季節が喪失し、一年中夏になっているという設定を知ったとき、ちょっとうらやましかった。ずっと夏では、さすがにうんざりするだろうか。しかし、もしエヴァの世界が一年中冬だったら、私はたぶん途中で見るのを止めていたような気がする。
8月の後半、夕方あたりに吹いてくる風に秋の気配がただよってくると、フェス終了って感じの悲しみが襲ってきて、「もうちょっとだけ待ってくれ」と懇願したくなる。今年の夏も、夏らしいことができなかったという後悔。一度も行ったことのないフジロック。海へ繰り出す年齢ではなくなった。どうすれば夏を全身で実感できるのか? 子どもの頃は実感できていたのに。気がつけばセミの鳴き声が聞こえなくなって、とんぼが飛ぶようになる。近所の田んぼから夜な夜な聞こえていたカエルの大合唱が終わる。お店のアイス売り場からソーダ、シャーベット系の割合が減って、バニラやチョコ系が戻り始める。親が、茹でたとうもろこしを食卓に出さなくなる。もちろん8月後半とはいえ猛暑日もあるのだが、どこか夏が無理して終わりを引き延ばそうとしている感じ、引退間際の野球選手がたまに打つホームランにも似た切なさがある。そしてコンビニで秋味のビールが出る。9月になったとたんに出る。これでトドメを刺されるのだ。秋味と書いてあるんだから、どう抵抗しても秋である。にっくき秋味ビールめ。コンビニに季節の区切りを決められているようで悔しい。
しかし個人的には、なにより日が短くなるのが辛い。つい先日までは19時くらいまで明るかったのに、いまや18時30分にはすっかり暗くなっている。ここから先はどんどん日が短くなり、やがて17時をすぎればあたりが暗くなってしまう。日は長ければ長いほどいい。私は、季節ごとに日照時間が変動する地球の仕組みに不満があるのだが、これは神に文句を言うしかないのだろうか。神さぁ、ちょっとこのシステム直せません? 日照時間が短くなると、それだけで気が滅入ってしまうのだ。夏が終わって気温が下がるのは受け入れるとしても、日照時間は一年中夏のままでいてくれないだろうか。外が暗いのはメンタルによくない。どうやらノルウェーは日照時間が長いみたいだから、いっそのこと引っ越そうか。でも、ノルウェーには松屋がないからなァ……。私は松屋の朝定食がないと生きていけないのだ。
ドアーズのアルバム『太陽を待ちながら』(1968)に「Summer's Almost Gone」(夏がほとんど終わった)という曲があり、初めて聴いたとき、夏の終わりを almost と表現したジム・モリソンの気持ちがよくわかるように思った。「Summer's Gone」では少し足りない。まだ完全に終わり切ったわけではないが、ほぼ終わったという8月24日くらいの感覚。「いくらかは楽しいこともあったけれど、それも過ぎ去ってしまった」。社会人になると、日々のあれこれ追われているうちに夏などあっという間に去ってしまう。そもそもせっかくの休みの日にも、映画館と書店、サウナくらいしか行かない自分に問題があるのだが、夏に対して悔いが残るのはよくない。こうなったら、セカンドインパクトを起こすしか方法はないだろう。そして日本は常夏だ。セカンドインパクトのレシピは、たしかアダムとロンギヌスの槍だったはず。あれは南極にあるんだっけか?
【夏大好き人間の作った美容本です】