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薪窯のパン屋さんでキャンプしながら「パンと音楽、それらから浮かぶ自治観」を考えてみる


10月半ばになってもまだまだ残暑を覚える陽射しが降り注ぐ中、読谷村にある薪窯パン屋「commons」にて【パンと音楽】をテーマにした、クローズドのキャンプイベントが開催された。キャンプ沖縄事業協同組合(CAMP-O)を中心に、文化・環境・地域福祉に精通するメンバーなどで構成された「おきなわコモンズ」の主催で実施されたイベントは、“キャンプと自治”の関係性を模索するプロジェクトの一環。キャンプ、音楽、パンという要素を「自治」で結びつける試みでもある。今回は20人が参加した。

1日目(10/14)午後3時前から徐々に参加者が集まり始めると、それぞれコーヒーを淹れたり世間話をしたりしてリラックスムードの中、CAMP-Oメンバーがタープやテントを張り始める。

参加者が揃い、CAMP-O専務理事の久高友嗣さんが簡単にイベント開始の挨拶を告げると、commons店主の金城勇作さんが早速、翌朝焼くパンの生地を皆の前に運び込んだ。

パンを「手ごね」で仕込む

「自家製の酵母と生地を手ごねして、1日寝かせた後にレンガで作った窯で焼き上げます。店の名前の“commons”が持つ『共有』という意味には、民主主義や自治、そしてパン作りにも通底するものがあると思っています」。金城さんはパン作りが始まる前のイントロダクションでそう述べた。

commonsのパンを手ごねで作る理由の1つは、カフェ営業をしながらパンを仕込むことに向いているからだという。電動のミキサーで一定時間かけて自動でこねる方法もあるが、その場合は生地から目が離せなくなり、身動きがとれなくなるとのこと。加えて、手ごねだからこそ水を多く入れて作ることができるタイプのパンもあるそうだ。

酵母と粉と水を混ぜてひたすらこねる、という一通りの説明を受けて、3種類のパン生地に対して6人の希望者が挙手して手ごね体験をした。小麦粉や砂糖などの粉はあらかじめ計量されており、参加者は水の分量を計って粉に流し込んで2人体制で生地をこねていく。
出来上がるパンの種類によって粉と水の比率がそれぞれ違っており、生地の密度が高いものはその分こねるのに力が必要になってくる。見守る人たちはもちろん、体験した人たちの間でも「さっきよりも大変そう」「これはサラッとしてるかも」といった各々の感想を皆で共有しつつ、仕込み作業は和やかに進行。こねられた生地は一晩の暇を挟んで、翌朝の窯焼きを待つ状態になった。

音楽が有する「自足」

束の間の休憩を挟んで、音楽ワークに移る。この時間はむぎ(猫)のカイヌシ・米須雄作さんを中心に、音楽家の川口大輔さんとドン久保田さんの3人でトークセッションを展開した。

先ずは米須さんが、むぎ(猫)とつじあやのさんとの共作曲「窓辺の猫」をキーボードの弾き語りで奏でた。午後6時ごろの夕暮れの空に響きわたる歌詞とメロディーに、参加者たちは小さく身体を揺らして聞き入っている。
演奏をし終えて拍手を受け止めると、「基本的に楽曲の解釈は聞いてくれる人たちに任せていますが、自分の曲を解説するのは好きなんです」と米須さん。共作に至った経緯や制作のプロセスについて、当時の状況にも言及しながら語った。

ドンさんは歌詞に描き込まれた喪失について「喪失の体験は他者とは共有できませんが、だからこそ自分を形作る上で大事なことだと思います。そうやって形作られた自分という個人個人が、『自治』の基盤になる。そして、そこに寄り添ってくれるのが音楽なんだと思います」とコメント。
次いで、金城さんがパン作りの際に口にしていた「パンは発酵の形跡」というフレーズになぞらえながら、川口さんが「音楽は自分の中に存在するというよりも、自分が“床”として在って、そこに外からの刺激を感触ごとインストールしてアウトプットしていくことの繰り返しだと思います」と続けた。

また、キャンプに絡めて「自足」というテーマについて議論された場面では、米須さんが「自分のために歌うことが『自足』。そこには『今ある状態に満足する』という意味と、『必要なものを自分で用意する』という意味があると思います。音楽はその両方を持っている」と話した。
このほか、参加者からの質問も受け付けながら音楽を共作することについて、音楽と教育について、音楽と表現、世間一般からの文化への理解など、話題は多岐に及んだ。

その後は夕食と歓談の時間となり、参加者は自然にいくつかのグループに分かれて各々で交流を深めていった。

窯に火を入れ「余熱」でパンを焼く

翌朝。

午前4時過ぎには金城さんが工房に“出勤”し、キャンプ泊をしていた参加者も数人目を覚まし始める。薪を燃やして窯の温度を十分に上げるためには、4時半ごろに火を入れて約3時間かかるという。この日は定休日明けで営業日の始めの地点だった。

「休日明けだと窯の温度が下がってしまっているので、どうしてもコンディションは変わる。火を入れて、週半ばくらいになるとどんどん“熱がのってくる”んです。それで焼き上がりもやはり違ってきます」(金城さん)

温度が上がりきるまでの時間は、昨日参加者とともに仕込んだ生地をカッティングし、計量しながら手際よく整形していく。外に面した唯一の工房の窓ガラスから、昇り始める朝日の淡く青い光を浴びながら黙々と作業するその様子は、ある種の儀式のようでもあった。その様子をガラス越しに参加者たちが静かに見守っている。

窯が熱を帯び、パンを焼ける状態になると、温度に応じた種類のパン生地を順番にトレイに乗せて窯の中へ。commonsでは窯の温度を上げ切ると、薪の火を止めて余熱で次々に焼き上げていくスタイルをとっている。「パンを焼く量に敢えて制限を設けることで、働き過ぎないようにしている」と金城さんは言う。この日は食パン、ベーグル、あんパン、フォカッチャ、そしてクッキーなどが次々と焼き上げられていった。

香ばしい芳香に満ちた空気を十分に吸い込んで垂涎の状態で待ち侘びていた参加者のもとに、焼きたてのフォカッチャとベーグルが試食で提供されると、頬張った刹那口々に「美味しい…!」と満面の笑みを浮かべる。

「コモンズ」が同時多発的に起こること


最高に贅沢な朝ごはんを食べ終えて、キャンプのギアや各自の荷物を片付けて撤収準備に入る。最後、輪になって参加者それぞれが以下のように感じたことを述べた。

「生地をこねて、焼いて、というパンを作っていく時間と行為そのものに尊さを感じました」

「パンを生み出していく過程に寄り添って見届けられたのは良かったです。生き物のように感じました」

「思っていたよりもシンプルな作り方で驚いた。音楽とパンを作っていく話では、作られるものは違うけれど、根底ではつながる部分もたくさんあることも感じて、刺激的で気づきがありました」

「すべての工程を(金城さんが)普段は1人でやっているのは凄い」

「“生き物感”を感じた貴重な時間でした。今度機会があればcommonsの空間の話も聞いてみたいです」

CAMP-Oメンバーの宮平未来さんは「自分の身近なものから“コモンズ”を見つけていくのは面白かった」と話し、「今回はcommonsの空間を殺さずに、いかにキャンプ感を出すかに注力しました。場所と向き合う時間は楽しかったです」と空間づくりについて述べた。

「皆で生活をともにして知らない人同士でまとまっていくことを実践する中で、人間関係しての収束や音でもそれを紡ぐことができるのが心に沁みました」と久高さん。「パンへの意識が強かったのか、4時起きも苦ではなくさほど眠くないのが不思議な心地です」と微笑んだ。

金城さんは「皆でパンをこねる作業をできたのも良かったし、音楽の話にも共感することがあって良かったですね」と穏やかに語る。
「互いのやっていることをシェアすることが、コモンズが同時多発的におこることのきっかけになると考えています。皆がこの場所でコモンズを体感した時間がそれぞれのやっていることに、何かつながっていけばいいですね」


クレジット

執筆・写真:  真栄城潤一

企画・ディレクション:株式会社スタジオレゾナンス 代表取締役 久保田 真弘

会場提供:commons (読谷村)

プロジェクト: 
公益財団法人トヨタ財団 助成プロジェクト
2022 国内助成プログラム「2)地域における自治を推進するための基盤づくり」

D22-L-0101「キャンプが生む自治基盤組成の検証と実践 - リアルとネット、業界や地域を往き交う共営」- おきなわコモンズ