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中世タリンを舞台にしたミステリー『薬剤師メルキオール』の魅力(ネタバレ注意)

映画基本情報

タイトル: 薬剤師メルキオール シーズン1
発表年度: 2023年
監督: エルモ・ヌーガネン(Elmo Nüganen)
出演者: メルテン・メツァヴィール(Märten Metsaviir)、マーヤ・ヨハンナ・メーギ( Maarja Johanna Mägi,、アロ・クルヴェ( Alo Kõrve)
ジャンル: ミステリー、歴史ドラマ
評価: ★★★★☆(4/5)
上映時間: 約100分
制作国: エストニア
言語: エストニア語+英語字幕
あらすじ: 15世紀のタリンを舞台に、薬剤師メルキオールが謎めいた殺人事件を解決していく物語。
薬剤師でありながら死者と話すことができる特殊な力を持つメルキオールは、タリンの街で複雑な殺人事件や陰謀を解き明かしていく。その背景には中世の権力闘争や魔術が絡み、緊張感あふれるミステリーと理性的な捜査活動が織り交ぜられている。
聖オラフ教会で起こった殺人事件を発端に、中世エストニアの社会の闇や宗教的な謎が絡み合う。謎解きの過程で、メルキオールは彼の人生を揺るがすロマンスや悲劇に直面することになる。

鑑賞感想

エストニア作品としての新鮮さ

エストニアの映画やドラマが国外で視聴できるのは珍しく、文化的な背景を知る上でも興味深い作品でした。

エストニア作品がこれほど完成度の高い形で世界に発信されるのは非常に新鮮で、特に中世北欧の生活様式や文化が忠実に描かれている点が印象的でした。
薬局の内部や僧院の厳かな雰囲気、タリンの街並みなど、細部まで丁寧に再現されています。あたかも15世紀にタイムスリップしたかのような感覚を味わえました。
薬局や僧院といった当時の生活を垣間見ることができるシーンが多く登場し、興味をそそられました。例えば、薬草の使い方や薬剤師の仕事の描写には、現代の医療技術と通じる部分があり、中世の文化と現代を比較する楽しさも感じました。

視覚的な美しさとともに、中世の生活に触れることができる作品です。

主人公メルキオールと「負の役割」を背負う者同士の絆

薬剤師が主人公というのはユニークで、推理の手法にも薬学的な要素が絡むところが新鮮でした。

主人公メルキオールは、聡明で洞察力に優れた人物として描かれており、彼の後年の探偵仲間シャーロック・ホームズを彷彿とさせます。
薬剤師でありながら死者と話す能力を持つ主人公メルキオールが、複雑な事件を解き明かしていく物語は、伝統的な推理ドラマとファンタジー要素を見事に融合させています。この「死者との対話」という特殊な能力が、事件解決のカギになる展開は、視聴者を強く引きつけます。

一方、彼の恋愛関係も作品の重要な要素でした。

ロストックから来た首切り役人の娘ケイトリンとの関係は、メインストーリーに織り込まれたサブプロットとしてとても興味深いものでした。しかし、彼女があっさりと殺されてしまう展開は唐突に感じられ、感情移入が追いつかない部分もありました。

実は、メルキオールが死者と対話できる能力を持つという設定は、彼の存在に一種の神秘性を与えますが、それは同時に「普通の人々」とは違う孤独や疎外感を生む要因にもなっています。
一方で、彼の妻となるケイトリンもまた、父親が首切り役人という忌まわしい役割を担う家系に生まれたことから、社会的な偏見や孤立を経験してきた人物です。彼女は父親が人を処刑するという職務を負っていたことで、自身の過去を語ることすら憚られる立場にありました。

この二人は、それぞれが「生と死」に深く結びついた役割を背負う者として共鳴し、互いに理解し合う特別な絆を築いていました。メルキオールにとって彼女は、ただの恋人ではなく、自身の異質性を受け入れてくれる存在であり、彼女にとってもメルキオールは、出自の重荷から目を背けず、それを肯定的に受け入れてくれる唯一の人間でした。

愛情と悲劇の象徴

ケイトリンの死が唐突でありながらも、物語において深い意味を持つのは、この「負の役割」を背負う者同士の絆が、彼女の死によって断ち切られることで、メルキオールが背負う孤独をさらに際立たせるからです。

彼女の死は、物語の中で単なる悲劇ではなく、中世の厳しい現実や運命の無情さを象徴しています。そしてそれは、メルキオールが「死」をテーマにした事件に関わり続ける動機にもつながっていく重要な要素となっています。

彼女の存在とその喪失は、物語全体において「死」というテーマをより強調し、メルキオールの人生における選択と葛藤を描く重要な軸として機能しています。彼の捜査や人生哲学に影響を与えるこの関係性は、シリーズ全体における深みを増す要素となっています。


総評

「薬剤師メルキオール シーズン1」は、中世エストニアの魅力的な世界観を堪能できる作品です。
推理ドラマとしての完成度が高く、歴史や文化に興味のある方には特におすすめです。唐突な展開や説明不足に感じる部分もありましたが、全体としては非常に満足度の高い作品でした。

また、こうしたエストニア作品がアマゾンプライム(ドイツ)で視聴できるのは大変ありがたい機会です。日本では見られるかどうかわからなくて申し訳ありませんが、あまり知られていない作家や監督の作品にも目を向けるきっかけとなるでしょう。
次のシーズンもぜひ期待したいです!

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神谷ちよ@あなたの情熱で世界を変える!グローバルプレゼンマスター|異文化コミュニケーション専門家
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