リサイクルショップなどでフィルムカメラを買うということ
フィルムカメラが見直され始めています。
フィルムの写り、カメラのデザイン。デジタルカメラと比較して面倒くさいけれど撮影する実感を得られる操作性。現像が仕上がってくるまで楽しみにできる待ち時間・・・などスピードと効率が結実した現在のデジタルカメラや携帯端末とは別の写真表現手段、モノとして触れる楽しさがあってフィルムカメラとフィルム写真というアナログな写真には代えがたい魅力があります。
ですが今は誰でもスマホなどの携帯端末やデジタルカメラを持っているのですからフィルムカメラのニーズは減り、カメラメーカーの殆どがフィルムカメラの製造をやめてしまいました。近年見直され始めたというものの、フィルムカメラニーズがまだ少なく新規に製造するメーカーは現れません。
現在入手できるフィルムカメラの殆どは中古品になります。デジタルカメラなどの急速な普及でプリント枚数が激減して町の「カメラ屋さん」も減ってしまいましたから、都心や繁華街に残る中古カメラ店か骨董品や中古生活用品などを扱うリサイクルショップで入手するという方法になります。中古カメラ店など専門店での購入の場合は、知識豊富な店員さんに相談しながら購入できますので一番お勧めできます。しかし、専門店では知識を持った店員さんがひとつひとつ点検して、時には修理会社にメンテナンスしてもらっての販売になりますから、信頼できる分リサイクルショップなどで購入するより購入価格が上がります。値段を比べて専門店の1/10くらいで販売していることもあるのでつい安さに魅せられてリサイクルショップなどで購入する方も多いようです。
そこで初めてのフィルムカメラ購入がよくない思い出にならないように、中古カメラ店を経営している私の視点で比較的人気のあるフィルムカメラをリサイクルショップで買ってみて、それはどういうものなのかということの一例をここでお伝えしてみようかと思いました。
コニカC35 E&Lです。
この小さくかわいいカメラは、写りもよく露出設定も自動で撮りやすい人気機種です。フィルムカメラをこれから使ってみたい若い方にも人気です。ちなみにおおよその販売価格(2019年現在の参考値)は、中古カメラ店で作動チェック現状渡し品(知識豊富な店員さんがチェックを行って撮影に問題がないと判断した商品)で6、8千円くらい、メンテナンス済み(修理専門店でメンテナンスして正常に機能する商品)で1万5千円前後が現在の相場と思います。
写真のカメラは某有名リサイクルショップで購入しました。値札には、「シャッター切れました」とありました。外観もよく観ればちょっと汚れがあるものの、それほど汚くもない印象です。価格は税込みで2,700円でした。
たぶんフィルムカメラをこれから使ってみたい方などあまり知識のない方なら「シャッター切れるし、なんとかなるか、安いし」ということで購入される方が多いのではないでしょうか。リサイクルショップの店員さん曰く「これ人気なんで、入るとすぐに売れちゃうんですよ~」とのこと。
では、このカメラがプロの目からよく観てどういう状態なのか解説しましょう。
外観、レンズ周りの腐食(さび)があります。この程度はクリーニングすればきれいになるでしょう。
ボディ巻き上げレバー横に傷と腐食あり。まぁ、磨けばきれいになるかな。巻き上げレバーが緩み気味。こういった緩みは素人の分解痕かも知れません。このまま使うと巻き上げレバーが分解するかも知れません。
巻き戻しノブさび、ホットシュー(フラッシュを取り付けるところ)さび。磨けばなんとかなるでしょう。
裏蓋を開けるとフィルム室の中はカビだらけ・・・。遮光材(モルト)も劣化して粉状になっていて汚い。クリーニングと遮光モルト張替えが必要。この状態だとボディ内部にカビが生えている可能性が高いです。
レンズの状態。外側は汚れとカビが生えています。レンズ内部もカビや油状の汚れが多くこのままだと写りも悪いです。
次にファインダーを覗いてみましょう。やはりファインダー内部にもカビが多数生えていて曇ってしまっていて、ピントも合わせにくい状態です。
次に「シャッター切れました」と値札に記述のあった部分です。巻き上げてシャッターレリーズボタンを押すとシャッターは動きますが開いて閉じるまでに時間が掛かりすぎます。この状態で撮影すると全コマ露出オーバーで真っ白でざらざらした写真が仕上がりますw。シャッターがこの状態になる原因は、内部の油がシャッター幕に回って粘りついて動きが悪くなる場合とシャッターの内部の歯車などが油切れで動きが悪くなる場合があります。このC35の場合は後者の可能性が高く、シャッターを分解整備しないと直りません。
この状態でフィルムを入れて撮影してしまえば、ほぼ壊滅的に写らないので、2,700円+フィルム代+現像費用+せっかく撮影に行った想い出全てが残念な結果になってしまいます。
それが分っていれば、初めから多少高価でも正常作動する商品を購入したほうがよいと思います。一番大切な想い出、写らなかった写真は戻りません。その上、せっかくフィルムカメラに憧れて始めてみたのに第一印象が「がっかり」というのも悲しいことです。
しかし、こういったジャンクカメラを修理できるスキルをお持ちの方にとっては、趣味で修理を愉しむことができるので有益だと思います。修理自体が目的ならば、素材は安いほうがいいでしょう。
次回は、このカメラを修理してみます。その手間がどのくらい掛かるのか、その修理費用(対価)はどの程度なのか、ちょっと興味があったらぜひご一読ください。
カメラのヤマヤ 店主 浅野 毅