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写真フィルム増産と街の写真屋存続問題

先日Kodakによる写真フィルムニーズが増しているために工場を再構成して生産体制を一新する計画がSNS上で話題になった。

・2024年11月18日 FilmFocus 記事
コダックがフィルム生産ラインを一時閉鎖する模様

実際、映画業界や映像業界でのフィルム撮影ニーズは上がっているようだし、近年フィルムカメラがデジタルネイティブ世代に人気が出てきたおかげで写真フィルムニーズも増加している。
とはいえ映画や映像ニーズ以外のスチール写真でのフィルムニーズの殆どは業務使用でなくアマチュアカメラマンニーズだ。
スチール写真のプロフェッショナル・ニーズはコストとスピードを求められる現在では、フィルム撮影は微小である。
デジタルネイティブのアマチュアカメラマンがフィルムカメラの手触りやフィルム写真のデジタルではあり得ない偶然性やアナログ粒状のある写りのテイストを求めてフィルムを購入しても写真がフィルム中心だった頃のような数量ニーズは生まれ得ない。

そしてアマチュアカメラマンがフィルムの現像処理を依頼するのは殆どは、昔から変わらない街の写真屋さんである。
現在は郵送で現像を請け負う写真屋さんも増えているようだが、ライトユーザーにとって一番手間がかからず気軽に頼める窓口が街の写真屋さんだ。
だがフィルム写真が写真の中心から隅の方に追いやられて20年以上経過して
写真屋さんは写真プリントニーズの激減によりどんどん廃業していった。

フィルム時代、写真屋さんは、36枚撮りフィルム1本撮影して預かれば、現像と36枚のプリントの「同時プリント」注文を受けていた。
デジカメがまだ無い時代は、紙にプリントしないと写真を見ることができなかったからだ。
それがデジタルカメラが実用程度に進化した2000年頃からフィルムのニーズが減り始め、フィルムメーカー各社は一般向け汎用カラーフィルムの値段を極限まで下げることで顧客を維持しようとしたが(一時はカラーフィルム1本100円程度で販売していた時期もあった)、デジタルカメラの写りと便利さには敵わなかった。

その後、携帯電話にカメラが搭載され、画像をシェアできるようになり、スマホになりより高性能なカメラが標準装備されて、デジタルカメラもプロカメラマンが求める業務用と写真趣味のアマチュアカメラマン以外のニーズを失った。
スマホから自動的にネットストレージにいくらでも記録でき簡単にシェアできるようになった今、写真を紙にプリント必要もなくなってしまった。
だから今では写真屋事業で起業しようとすると新規事業計画として成り立たない。既存の写真屋さんも近年いくらフィルム現像ニーズが増えてもそれを行う現像機やデジタル化を効率的に行う業務用フィルムスキャナーなどの機器の維持管理、その操作を行う技術者の維持育成、その人件費を新規創出するのは難しく、維持するだけでも厳しいのが実情のようだ。

当店、カメラのヤマヤも先代は街の写真屋さんだった。
富士フイルムフロンティアのウエットタイププリント機を先代の店主の拘りで使っていた。プリントの腕も好評で私も現像・プリントを依頼していた。しかし注文の絶対数はどんどん少なくなっていって、一時は現像機を動かしておくと電気代だけで赤字になるのでという話も聞いていた。そしてとうとう現像機が故障して修理不能で廃棄して閉店を決意する。その後私がお店を引き継ぐことになったが、高価な現像機など導入できるわけもなく、事業として考えていた中古フィルムカメラ専門店として開店した。

しかしながらフィルムカメラを販売するなら、フィルムの販売と現像やプリントも請け負えなければならないとも考えていた。カメラの販売だけでは事業的に片手落ちだと思ったからだ。その上、先代の店主はプリントの質に拘りがあったのでそこも考慮したかった。たまたま前職時代にお客さんとして知り合った方がプロ写真家にも評判のいい写真屋さんだったので協力を申し出たら快諾いただいて、依頼されたフィルムや現像済みのフィルム、プリントを持って私がバイクで写真屋さんへ通うことで注文を受けられるようになった。

私がお店を継いだ時、近隣にも何軒か写真屋さんが存在していた。
先代にお話を伺うとそれほど交流はなかったとのことだったので、開店当時フィルム現像受注本数も少なかったから処理本数を維持して現像機を回すために一ヶ所の現像所にフィルムを集めた方がいいだろうという考えた。
なので今も同じ写真屋さん(現像所)に依頼し続けている。

しかし近年徐々にフィルムニーズが微増を続けて、近隣の写真屋さんが廃業してしまった結果、フィルム現像本数が集まってしまって依頼している現像所が手一杯になってきてしまった。
仕事が増えたと言っても写真屋さんの技術はもはや特殊なものなので業務が多忙な中で新しい社員を増やして教育などなかなかできる状態でもない。

実際、これまで続いてきた街の写真屋さんの殆どはお店の人が変わらず承継もできず高齢化して、扱っている機械が壊れたのを機に廃業というケースが増えている感じだ。たとえ現像受注本数が増えていたとしてもだ。
そういった街の写真屋さんという「フィルムの現像インフラ」は、都市部ならともかく地方に行くほどもう近隣に写真屋さんが1軒も残っていないという現実もある。

これを書いている間にalea12さんの
世界のフィルムラボ事情: 設備編
https://note.com/alea12/n/n7876f0905be7?sub_rt=share_sb
という記事を読ませていただいた。

現在の海外でのフィルム事情をSNSでしか知らない私は、「海外、特にヨーロッパでは、フィルム撮影が日本よりニーズがあってフィルムも日本の価格より高価に見えるけれど物価が違うし売れているんだろうなぁ」とカラーフィルムも最近はKODAKだけでなくヨーロッパからいろんな種類入ってくるのでそんな想像をしていた。
でも前述の記事を読むとヨーロッパでも街の写真屋さんも日本とそれほど環境が変わっているわけでなく、フィルム写真衰退時期に現像機メーカーが撤退していったため今でも旧い機種を修理しながら使っているところが殆どのようだ。
日本では、フィルム時代に富士フイルム系の写真屋さんはフロンティアという富士フイルム製の業務用自動現像プリント機を使っていてKODAK系の写真屋さんはノーリツの現像機を使っているイメージがあった(必ずしもそうではないけれど)。ノーリツは数年前に製造を完全にやめてしまった(サポートは僅かに残っているらしい)ので日本国内では今は富士フイルムのフロンティア一択。現像ニーズは高まってもプリントニーズはあまり変わらず増えないのでこれまでのカラー写真プリントでは主流だった印画紙を使ったデジタルCプリント(ラムダプリント)から機器導入イニシャルコスト的な影響でインクジェットプリントに移行しつつある。

写真の紙へのプリントについては別途機会があれば改めて書くとして、現在の大多数ユーザーの写真フィルムの扱いは「フィルム現像(化学処理)→デジタルスキャンによるデジタルデータ化」が主になっている。
そこで必要なのは、C-41処理のネガカラー自動現像機とモノクロネガ自動現像機、そして僅かなニーズであるけれどカラーリバーサルフィルム現像機(E-6)。
ニーズとして優先順位的にはC-41カラーネガ自動現像機であるのだがモノクロネガフィルムという独特の描写が愉しめるフィルムをもっと気軽に使えるようにモノクロネガフィルム自動現像機も是非街の写真屋さんに欲しいところだ(何軒かに1台共用でも構いません)。
そしてこれを書いている途中に富士フイルムもフロンティアのカラーフィルム現像機の製造を近いうちに終了するという写真屋さん界隈での噂を聞きつけてしまった。
日本国産で唯一新品で購入できるネガカラー自動現像機(C-41)FP232B

これも風前の灯状態らしい。
これが買えなくなると今まで使ってきた機器をどれだけ延命させられるか?ということになっていく。サポートパーツをいつまでメーカー供給してくれるか?サポートが切れて現像機が買えない状態でパーツの技術情報公開やアフターメーカー製造を許可してくれるか?データがあればもしくは部品の設計データを作ることができれば3Dプリンターなどを使って製造を請け負ってくれる工場で消耗品やサポートパーツの製造もできるかもしれない。
しかし、今後10年20年先そのままでいけるかと思うと難しいだろうから、世界のどこかのメーカーがフィルム自動現像機と新しいデジタルススキャニングシステムを開発して、フィルムと一緒に街の写真屋さんに供給できる仕組みを作ってほしいと切に願うのだ。

2025年1月23日校了

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