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山城達郎監督作品『心平、』

山城達郎監督作品『心平、』感想
※多少ネタバレを含みます。

去年、お店(カメラのヤマヤ)をロケーションに撮影されたBS松竹東急のTVドラマ「カメラ、はじめてもいいですか?」の5、6話を監督していた山城達郎監督の新作映画を観た。

物語は、東日本大震災の四年後の福島第一原発近くの街に暮らす一つの家族とそれを囲む人たちの群像劇である。
主人公心平は軽度の知的障害と自閉症を患っている。
父親はそんな息子を気遣ってか高校に進学させずに一緒に田んぼで農業をしていこうと考えていたようだ。そこに東日本大震災で原発事故が起きて、その希望は途絶える。

父親は震災での道路規制の警備員をしている。夏の暑い中も日陰のない場所で一日立っている仕事はきつそうだ。食うには困らなそうな感じではあるが希望はない。

主人公の妹は、街の公営プラネタリュウムでバイトしていて、家では家事を切り盛りをしながら就職先を探している。

主人公は、1日中自転車で街をふらふらしていて、最近街に戻ってきた傘屋の娘に惚れて入れ込み始める。
福祉施設で就職の斡旋されているようだが気が進まないらしくて面接から逃げている。
同世代の周りの人からは「いいやつ」扱いだが障害のせいで軽く馬鹿にされている部分がある。

父は今までやってきた田んぼを売り払い、農業なんてもうダメだと酒ばかり飲んでいる。
妹は男を作って家を出ていった母親を恨みつつ母に付けてもらった「いちご」という名前を嫌っている。

主人公、心平は意中の傘屋の娘の店に通うが、相手にされることもない。
父にもらった小遣いのほとんどは傘に注ぎ込んでいる。
そんな心平には家族も他人も知らない秘密があった。

主人公の行動を中心にそれぞれの視点で物語は混じり合う。

「人生計画」という言葉が筆者が学生の頃からあって、それに向かって若い頃から計画している人もいた。
筆者は若さ故の過ちか?そういうことにはアンチで過ごしてきたが、周りも自分も実際のところ計画通りに人生を送れているのは幸運としか言いようなないように感じる。
東日本大震災という大きな不幸により人生が捻じ曲がった方もいれば、普通に計画通り暮らしていてもどこかで躓くことも普通にある。
その先にどう生きていくかは、たとえ小さくともそれぞれの希望とかを見つける意識を持てるかで幸せに繋げることができるかの分かれ道ではないだろうか。

この物語では東日本大震災と原発事故をきっかけに家族の将来計画が崩壊してしまう。母親がどのタイミングで家を出ていったのかは語られなかったが、関係があると思うのも自然かもしれない。60代後半に差し掛かる父親も希望を失くし自暴自棄一歩手前で生きている。障害を持つ30代半ば息子の未来を案じているという部分が唯一の生きる意味のように。
妹も一緒に育ってきた兄の良さを知っているし家族に愛を感じているけれど、母を失った分、堕落する父と行き先が定まらない兄の面倒を見ているストレスと行き先の不安に苛まれている。それでも一番気丈に立っているのはまだ家族に対しての愛を失っていないからだと思う。

物語は、まるで全てを失っていくかのような展開になっていくのだが、最後の最後に心平の一言で家族は救われていく。
個人も家族も ひとは一人一人、どんな境遇にあっても必ず「居場所」があって、それを見つけることができるように人と人は関係しあって希望につなげるという話に思えた。

・物語以外の余談
映像のカットがわかりやすくきれいに撮れていて完成度が高い。
役者さんたちの演技がすごく上手い。声の張りなど迫真の演技だ。
主役の心平の演技の凄さもあるが父親、妹、友達、その他も全く違和感のない演技なのが普通にすごい。
このへんの凄さの根幹になっているのは、監督の力じゃないかと思う。
ドラマ「カメラ、はじめてもいいですか?」の撮影同行記にも書いたけれど、山城監督は役者さんに静かに丁寧な言葉にして説明している人だと感じたので、役者さんたちが物語をよく消化して演技に昇華できたのではないかと思う。
次回どんな作品を撮るのかもきになるところ。
※作品のパンフレットを買うと監督や役者さんの解説などの他に映画の台本も付いています。

山城達郎監督作品『心平、』
新宿K's cinema 2024年9月27日まで他全国順次ロードショー


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