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自然

自然の力は偉大だ。時々忘れがちになるけれど、ふとした時にそれを実感する。
小さいころから、自然に囲まれることは多くはなかった。住んでいる場所は都会ではなかったけれど、田んぼや山はそんなに見たことはなかったし、虫と出くわすこともそれほどなかった。

だからなのか、私は虫が苦手だ。あの身体の作りが、どうも受け入れられない。テントウムシなど、遠くから見る分には耐えられる虫もいるけれど、触ることなんて絶対に不可能である。小さいころの教育番組で、青虫が蛹になって蝶になる過程をよく目にしたけれど、とても見ていられなくて違う部屋へ逃げてしまっていた。

カブトムシやクワガタを虫かごに入れて飼っている従兄弟の気持ちなんて、全く理解ができなかったし、小学校の理科の教科書に書かれている絵を見ることすら避けてきた。

大人になって、ますます自然のある場所へ出向かなくなった。そんなある時会社の先輩たちからキャンプへ行こうとお誘いを受けた。
キャンプ場へ行くのなんて小学生以来。ラフティングなどのアクティビティもあるし温泉にも入れるという。楽しそう!と迷うことなく行くことにした私だったが、バンガローにたどり着いてから衝撃のものを目の当たりにする。

蚊がでかい。異常にでかい。どうしてそんなに大きくなったの?と聞きなくなってしまうほどにでかいのだ。それはもう、とにかく衝撃的だった。

どこに住んでいようと、夏になれば蚊に刺される。できる限り虫には触りたくない私だけれど、蚊は別だ。いざ目の前に飛んで来ようものならためらうことなく攻撃にかかる。
しかし、キャンプ場の、大自然の中の蚊はレベルが違った。存在感がありまくりなのだ。とても攻撃する気にはなれなかった。そして1泊2日という短い時間の中、自然の未知を大いに感じながら、叫び、逃げ回った。一緒にいた先輩方にはご迷惑をおかけしました。

そんな自然の力に怖い思いも沢山したけれど、感動したことだってもちろんある。
10年以上前、富士登山をした時のことだ。普段運動もしないくせに、人生で一度は登ってみたいという理由で友人と登頂を目指した。あれは8月上旬だった。学校の行事でしか登山をしたことがなかった私は、ありとあらゆるところから富士登山に関する情報を集めた。

登る時期はいつがいいのか、何を準備すればいいのか、気を付けるべきことは何なのか。調べるうちに高山病というものがあることを知った。標高が高くなり酸素が薄くなることで、頭痛や吐き気を伴う。

なにそれ、めっちゃ怖い。ビビった私は対策を片っ端から探した。出来得る限りの準備と対策をして迎えた当日。いざ登り始めようという時に、下山してきた人から小型の酸素スプレーを譲ってもらった。
「まじで甘く見ないほうがいいですよ」という忠告とともに。

結論から言うと対策の甲斐があってか、高山病に襲われることなく、特に大きな壁にぶち当たらずに登頂目前のところまでたどり着いた。あともうちょっとだ、と自分を鼓舞していた時、ガイドさんに「ヘッドライトを消して、上を見上げてみてください」と言われた。

満天の星空、とはあの事だろう。
思わず息をのんでしまうほどの、おびただしい数の星が頭上に広がっていた。
「きれい~!」と声を出すことすらできなかった。
ただただ壮大で、吸い込まれそうな光たち。写真に写すことなんてできないから、しっかりと目に焼き付けた。

普段私が住んでいる場所には光が多すぎて、星なんてほとんど見えない。でも見えていないだけで、実際はこんなにあふれんばかりの星たちがずっと輝き続けていたのだ。そう思うととても切なくて、でもとても美しかった。

自分の想像が及ばない遥か彼方まで、自然の世界は広がっているのだと感じた。苦手なことも多いけれど、もっと自然と触れ合う時間を作りたい。人の手だけでは作ることが出来ない、想像を超えた感動が、そこにある気がするのだ。

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