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【小説】扉

生きている価値もない。くだらない。そう思いながら、それでも毎日学校に通っていたのは、やはり優等生でいたいからだった。勉強だけはきちんとしていれば、先生に褒められるし、親にも喜んでもらえる。だから学校では、いつも真面目な優等生でいたかったのだ。
でも、それは本当の私なのだろうか。

何となく憂鬱に感じる今日この頃。イヤホンを付け、帰路に着く。季節は春。桜が咲き乱れ、多くの人が花見へと訪れている。
夜半過ぎになると提灯が桜をぼうぼうと照らしているというのに、人っ子一人いなかった。
ふと横を覗くと、川が流れている。いつもより水量が多い。きっと轟々と音を立てていることだろう。けれど私には届かない。
川には花びらが浮いている。その光景はとても綺麗だったが、私は何故か虚しい気持ちになった。

私の家が見えてきた。2階建てのアパートの2階。カンカンと金属で作られた階段を上る。女性は一階に住まない方がいいと言われるが、1階も2階も余り変わらないように思う。
鍵を取り出し扉を開けると真っ暗な部屋が現れる。この春から一人暮らしを始めた。両親は反対していたが、半ば押し切る形で家を出た。1人になりたかった。何も考えずにただぼーっとしていたい。それが私の願いだった。

電気をつける。荷物を床に下ろしたら、来ていた上着をハンガーへ。一人暮らし用のテレビをつけ、そのままキッチンへと向かった。今日のご飯は何にしようか。冷凍しておいたご飯を片手に考える。特に食べたいものは無い。この前作った野菜炒めとお味噌汁でいいだろう。一人暮らしだとつい、多く作りすぎてしまって困る。

テレビからはニュースが聞こえてくる。スポーツの事について、芸能人の結婚について。平和な話ばかりのようだ。私世代の若者はあまりテレビを見ないと言うが、私はこの時間が好きだった。
ご飯を食べ終えるとお風呂に入ることにする。本当は湯船に浸かりたいところだが、シャワーだけで我慢する。最近、水道光熱費が上がったらしい。親に払ってもらっている身としては、少しは気を使った方がいいだろう。

お風呂から出ると、つけっぱなしのテレビからまだニュースが流れていた。どうやら殺人事件があったらしい。ここから1時間ほどの距離のところだ。犯人は刃物を持って逃走。まだ捕まっていない。
最近物騒だなと思いつつ、明日の準備をする。そして布団の中に入った。目を瞑り、暗闇の世界へと旅立つ準備をする。

そういえば、家の鍵を閉めただろうか。

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