【カンボジアニュース】不良債権が急増、不動産は下落が続く
-銀行の不良債権比率は5.4%に急増(カンボジア国立銀行)
-プノンペンの不動産は4年前より3割以上下落(Knight Frank)
不良債権の急増
カンボジア国立銀行の発表した2023年度の銀行監督報告書によると、商業銀行・特殊銀行の平均不良債権比率は、2018年末2.2%、2019年末2.0%、2020年末2.1%、2021年末2.0%と横ばい状態でしたが、2022年末は3.1%、2023年末は5.4%に急増しました。マイクロファイナンス機関では更に多く、不良債権比率は6.7%になっています。この主要因は不動産不況と見られています。
尚、日本の所謂バブルにおける都市銀行の不良債権比率は、崩壊後の1998年に5.1%、その後ピークを迎えた2001年には8.7%となりましたが、その後改善しています。金融庁の金融再生法開示債権の状況等によると、2023年9月末現在の日本の不良債権比率は1.2%です。
また報告書によると、2023年度の商業銀行58行+特殊銀行9行の総資産は、前年度から17.1%増加して316.9兆リエル(約12兆200億円)、貸付けは14.8%増の213.4兆リエル(約8兆1000億円)、預金残高も22.3%増の188.1兆リエル(約7兆1400億円)といずれも増加しています。
貸付先をセクター別シェアで見ると、小売16.8%、個人用住宅12.9%、不動産10.0%、建設9.4%、個人向け9.3%、卸売8.7%、農林水産業8.7%等と分類され、「住宅、不動産、建設」を合わせると32.3%と大きな割合を占めています。それ以外にも個人資産を担保に借入をし、不動産に投資している事例も多いと見られます。
平均貸付金利は、欧米の金融引き締めの影響もあって、ドル建てで10.1%と上昇しています。貸付金利の上昇が、カンボジア国内の不動産投資家に追い打ちをかけているとも言われています。
不動産価格の下落が続く
不動産コンサルとして世界的に著名なKnight Frankの発表したPrime Phnom Penh Development Land Index(2024年第2四半期)によると、プノンペンの不動産価格は2019年をピークに下落傾向にあります。グラフを見ると現在は2015年末とほぼ同等にあるようです。2023年の取引の低調は現在も続いており、GDP成長予測が上昇したにも関わらず、市場活動は低迷したままとのこと。Knight Frankによると、2024年第2四半期をコロナが注目を集め始めた2020年第2四半期と比較すると、4年間に住宅で34.5%、オフィスで35.7%下落しています。下落傾向は未だに続いており、2024年の第1四半期(1-3月)と比較して第2四半期(4-6月)は住宅で1.4%、オフィスで2.9%の下落が続いています。
各銀行の不良債権は?
さて、中央銀行から発表された銀行別の詳細情報から、いくつか拾い出してみます。まずは中華系から調べてみます。
Prince Bank
10年前に彗星の如く現れ、あっという間にカンボジア最大の中華系財閥となったプリンスグループ。その急成長の経緯やバックグラウンドについては様々な報道を目にします。その銀行部門であるプリンスバンクは、グループで開発している物件購入に対する融資も行っています。不良債権比率は11.5%に急増しています。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 0.7(3,016)
2019年 1.0(12,046)
2020年 2.3(32,583)
2021年 1.5(29,692)
2022年 3.9(115,180)
2023年 11.5(354,485)
Heng Feng Bank
シアヌークビルでオンライン事業を行っているNanhai online拠点と関係していると指摘する投稿も目にしましたが、こちらは何故か不良債権ゼロでした。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 n/a
2019年 n/a
2020年 n/a
2021年 n/a
2022年 0(0)
2023年 0(0)
Heng He Commercial Bank
こちらは、不良債権比率が最も高い銀行です。2023年度には急増し29.3%もあります。シンガポールのビジネスタイムスでは、昨年シンガポールで発生した10億ドル規模の史上最大のマネーロンダリング事件との関連性が報道されています。この銀行のオーナーは2018年にカンボジア国籍を取得した中国人とのことです。報道によると、シンガポールの巨額マネロン事件で逮捕された中国人10人のうち9人が、カンボジアのパスポートを保有していました。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 n/a
2019年 n/a
2020年 n/a
2021年 0(0)
2022年 3.5(15,874)
2023年 29.3(148,153)
次は、日本人に関わりが深い銀行も見ていきましょう。
ACLEDA Bank
三井住友銀行が18%、オリックスが12%出資(2023年6月19日現在)するカンボジアの大手銀行です。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 1.8(256,570)
2019年 1.2(181,798)
2020年 2.1(373,949)
2021年 2.1(455,590)
2022年 2.7(707,834)
2023年 6.0(1,606,460)
ABA(Advanced Bank of Asia)
急速に成長し、いくつかの分野ではカンボジアナンバーワンとも言われている銀行です。QR決済の最大手でもあります。日本との出資関係はありませんがジャパンデスクもあります。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 0.9(64,067)
2019年 0.8(90,053)
2020年 0.9(144,681)
2021年 1.1(227,787)
2022年 3.1(820,841)
2023年 4.3(1,373,596)
J Trust Royal Bank
日本のJトラストが過半数の株を保有し、カンボジアの財閥Royal Groupが45%を持つ合弁企業。旧ANZ Royal Bank。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 0.9(16,959) *この年までANZRoyal
2019年 0.7(12,543)
2020年 0.6(14,351)
2021年 0.5(16,759)
2022年 2.4(91,835)
2023年 7.4(271,320)
Phnom Penh Commercial Bank
2008年にSBIホールディングス及びその韓国子会社SBI貯蓄銀行により設立されたが、2016年に韓国の全北銀行に売却されています。ジャパンデスクがあります。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 0.5(10,064)
2019年 1.3(33,256)
2020年 1.3(38,656)
2021年 2.3(69,209)
2022年 5.1(162,016)
2023年 9.5(319,167)
Hatta Bank
三菱UFJ銀行の連結子会社であるタイのアユタヤ銀行の連結子会社。マイクロファイナンス機関ハッタカクセカを2016年に買収し、2020年に普通銀行化しました。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 n/a
2019年 0.3(12,928)
2020年 1.3(69,868)
2021年 1.5(102,987)
2022年 2.2(180,094)
2023年 14.5(928,926)
Sathapana Bank
日本のパチンコホール最王手マルハンが、当初カンボジアのオクニャー・ヴァン・タンと合弁でマルハンバンクを創設し、後にマイクロファイナンス機関サタパナを買収し合併しました。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 1.8(73,749)
2019年 1.3(69,386)
2020年 1.9(117,789)
2021年 2.0(159,061)
2022年 4.9(427,938)
2023年 7.8(698,244)
SBI Ly Hour Bank
マイクロファイナンス機関LY HOURの70%をSBIが買収し2020年に銀行化しました。30%は旧オーナーのオクニャー・リー・ホーが保有しています。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 n/a
2019年 0.4(1,585)
2020年 2.1(16,926)
2021年 0.9(18,443)
2022年 1.7(47,074)
2023年 2.4(69,888)
AEON Specialized bank
イオンの子会社。クレジットカード発行や月賦を目的に作られた特殊銀行です。他行と異なり業態から不動産関連の不良債権はほぼ皆無と思われます。2020年から21年にかけて急増したのはコロナの影響によるものです。
不良債権比率%(金額:100万リエル)
2018年 3.6(9,997)
2019年 3.5(18,630)
2020年 10.8(65,486)
2021年 10.2(61,599)
2022年 6.1(33,082)
2023年 4.6(30,278)
日本と関わりの深い銀行の不良債権比率が比較的高いのは、コンプライアンスに則った厳格な処理を行っているからなのかもしれません。以下に添付したのが2022年末と2023年末におけるすべての銀行の貸付金額、不良債権金額と比率です。
今後も不動産不況を主要因とする不良債権の増加が懸念されるところですが、カンボジアが不況を脱し成長を続けるための、政府の叡智と施策が期待されます。
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