紺屋の白袴・カメラマンの白袴
染め物が専門である紺屋(こうや)さんは、自分自身の履いている袴は染めることなく白いままという話がある。いわゆる「紺屋の白袴」のことわざ。
そのことわざには色々と解釈があり、「あまりに忙しいので自分自身に手が回らない」とか、「他人の問題に対してはうまく対処できても、自分の問題には対処できない」などというものがあるが、ここでは「専門家であってもあくまで仕事なので、自分に対しての仕事はしない」という解釈で話を進めたい。
プロ/アマを問わずカメラマンは袴を履かないが、紺屋のことわざで例えるとすれば、カメラマンにとっての袴はカメラであろう。
紺屋は袴を使って染め仕事をし、カメラマンはカメラを使って撮影をする。
普段はこだわりをもって撮影に臨むカメラマンであっても、自分自身のカメラ機材を撮る時は無頓着であるという例は多い。特によく見かけるのは、パソコンの前にカメラを置いて撮った下のような写真。普段の撮影ではちょっとしたアングルの違いや映り込みにも気を遣うというのに、なぜか機材撮影では完全に無頓着になってしまう。それはつまり、機材撮影は撮影のうちに入っていないからではないかと想像する。自分の袴を染めるのは仕事ではないのだ。
しかしせっかく撮るならば、いつもの撮影のような意識でカメラ機材の撮影でもこだわりを持ち、背景にも気を遣えば良いのになあと思ってしまう。
そこで、カメラ撮影で背景を色々と替えて撮ったものをここで紹介しようと考えた。
背景が変われば意識も変わる。意識が変われば普段の撮影のようなこだわりも蘇ってくる。それを期待したい。
●白背景
白背景は、最も撮り易いオーソドックスな背景である。それだけで全体的に光が回り込むので、適当に室内灯だけでもそれなりに写る。
もしライティングの調整をするなら、上のほうの光を暗くすると下の写真のように、グラデーションペーパーを使ったようにも写る。
白背景は大きさにもよるが、それこそ画用紙でも良いし、目の細かい布でも使える。いずれにせよ、背後までカバーできるように持ち上げて曲げられる素材が撮り易い。
●茶色背景(合成皮革)
ホームセンターでは、椅子用の合成皮革を切り売りしており、ここでは茶色系のものを使った。落ち着いた感じがあって、小物も一緒に入れても画になると思う。光の当て方によってグラデーションが出来るのは白背景の場合と同じ。
●黒背景(合成皮革)
黒い背景はそれほど難しそうにも見えないだろうが、実はこれがなかなか難しい。そして素材によってかなりライティングも変えないといけない。
下の写真はも合成皮革を使っている。全体的にマットなマテリアルなため、余計な映り込みが無くてその点では使い易い。しかしそのまま撮ると黒いカメラボディが背景に溶け込んでしまうので、メリハリを付けるために上の方は光が当たらないようにして黒く落としてある。
それから合成皮革は表面も柔らかいため、転がり易いものも止めてくれるので撮影し易い。下の写真ではレンズ部分を外して置いているが、固い台に置こうとするとストッパーが無ければ重心が安定する角度まで転がってしまうが、ここではそういうことはない。
●黒背景(化粧ボード)
カラーボックスなどで使われる化粧ボードで撮ると、マットなマテリアルながらも少しシャープ感が出てくる。既存のカラーボックスの流用でも良いとは思うが、キズが付きやすく目立つので、撮影用として別途用意しておいたほうがベスト。
それから化粧ボードは曲げられないので横の角度で撮るとボードの地平線が写り込んでしまうので注意が必要。上からの角度で撮ったり、あるいは地平線の後ろに別途黒背景を設置するなどの手当が必要。
●黒背景(ピアノブラック板)
パソコンデスクなどでも使われる天板でピアノブラック仕様のものがあるが、それを使うと透明感のある黒背景写真が撮れる。
ただし艶があるため映り込みが強く、それを解決するにはかなりの手間が必要となるので手軽さとは程遠い。最後の最後で挑戦する素材だと言っておく。
●フローリング
部屋がフローリングであれば、それを使うのも手かも知れない。
そのためには撮影エリアは徹底的に掃除と磨き込みをしなければ、仕上がりは期待できない。
写真というものは、撮影フレーム外が如何に汚くとも、フレーム内だけはキレイであれば良いのだ。
●プラダンシート
最近の新型コロナ対策でよく見かけるようになったプラダンシート、段ボールをプラスチックで置き換えたような板であるが、その独特なマテリアルが撮影にも活きる。それ自体が光を透過し、そしてスジに沿って導光したりもするので、ライティングによってかなり雰囲気が変わるのが面白い。
●大理石シート
ホームセンターでは、大理石のガラを表面に印刷した大理石シートというものが売っており、裏が粘着シール式になっていたりする。それを化粧ボードに貼り付けて撮影に利用する。
他にも、洗面所などの床に貼り付けるウレタン素材の大理石シートがあるが、それは艶が無いので大理石らしさが出ない。
●コルクボード
コルクボードは背景としては特筆するものは無いが、カメラの分解・修理の様子を撮るには適していると言える。なぜなら、それ自体が柔らかいためカメラを傷めないし、小さなネジがあっても黒背景よりは見失いにくい。そして見た目としてもクラフトマン的であり、分解・修理の印象に合う。
●天然石
天然石での撮影はかなり大変なものである。なぜならば、カメラにキズが付くリスクが非常に高いのだ。気をつけてそっと置いたとしても、カメラの重さでズレることがあり、ちょっとした擦り傷もすぐにつく。液晶パネルにキズがつけば取り返しがつかない。
しかしそれでも、うまく撮れた時の満足感はそこそこ大きい。ここでは、架空のカタログ表紙まで作ってみたりした。
・・・というわけで、これでカメラマンの白袴も紺色に染まることを祈りたい。
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