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《写真の保存修復を考えてみた vol.3》~写真の種類と特徴2~ by タケウチリョウコ

今日7月21日の誕生花は「ルドベキア」です。花言葉は「正義」「公平」だそうです。
公平で平穏な日々を切に願います。
こんにちは。タケウチリョウコです。


今回は前回記事の続き「写真の種類と特徴2」の【塩化銀紙と鶏卵紙】編です。

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私が最初に塩化銀紙と出会ったのはウィリアム・ヘンリー・フォックス・タルボット(William Henry Fox Talbot)の『自然の鉛筆』(1844年)でした。
塩化銀紙は、弊社名の由来でもあり現在の写真の原型といえるネガ・ポジ法の「カロタイプ」とも呼ばれています。

スクリーンショット 2020-07-14 14.12.51

当時の私は『自然の鉛筆』を見て、淡い色調の中に繊細で確かなコントラストを持ち、まるで貴婦人のような気品と気高さを感じました。


次に鶏卵紙は、日本でも多く制作をされた技法の一つです。
学生の時に彩色が施された鶏卵紙を見て、その鮮鋭な表現と生々しい江戸時代の人々の表情に触れ、タイムスリップしたような気持ちになりました。

スクリーンショット 2020-07-14 14.13.22

思い出話はここまでとして、この二つの技法と、どのような劣化があるのかを見ていきたいと思います。
(注:写真技法について、様々な見解や研究内容があります。ここではweb上で公開されている公的機関の情報を参考にします)


◾️塩化銀紙(単塩紙) Salted paper (1830年代末~1860年代前半)

タルボットが1835年に発明をした、感度の低い印画紙であるフォトジェニック・ドローイング紙と同じ方式で、カロタイプの印画紙でもあります。紙に食塩水を染みこませ硝酸銀を反応させ、光に感じる物質である塩化銀をつくります。ネガを密着させて太陽の光で焼き付けると赤褐色の画像が現れます。現像が必要のないいわゆる日光写真です。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

技法説明はGeorge Eastman Museumが公開しているYouTubeチャンネルを。

【主な劣化】
黄変:硫化や酸化によって画像が黄色や茶褐色に変色する現象。
退色:画像の濃度が低下する現象。

塩化銀紙は銀画像写真の中で最も劣化を起こしやすい写真と言われています。画像を形成する銀粒子が非常に小さく、粒子を包含するバインダー材料がないため外的な影響を受けやすいからです。
また制作工程で、画像を定着させる定着液(チオ硫酸ナトリウム)などの残留化合物によって、黄変や退色を生じさせることもあります。

*参考資料:
『The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes SALT PRINT』, Dusan C. Stulik, The Getty Conservation Institute, 2013
『Salted Paper Prints: Process and Purpose Symposium Abstracts』, Harvard Faculty Club, 2017


◾️鶏卵紙 Albumen paper (1850年~1890年代中期)

ルイ・デジレ・ブランカール・エヴラール(仏)が、1850年に発明をした19世紀を通してもっとも一般的に使われた印画紙。卵の白身に食塩を混ぜ紙に塗り、乾いた後に硝酸銀溶液を塗り、光に感じるようにします。ネガを密着させ、太陽の光で焼き付けると赤褐色の画像が現れます。現像は不要です。日本を訪れた外国人観光客におみやげとして売られた「横浜写真」は、この上にカラー写真と見まごうばかりの手彩色がなされています。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

技法説明はGeorge Eastman Museumが公開しているYouTubeチャンネルを。

【主な劣化】
黄変:硫化や酸化によって画像が黄色や茶褐色に変色する現象。
退色:画像の濃度が低下する現象。
亀裂:湿度の変化によって画像層が膨張と収縮を繰り返し生じる。

塩化銀紙に比べると、鶏卵紙の退色傾向は低いです。しかし支持体の紙が非常に薄く台紙などで固定をしないとカーリングしてしまいます。
そのため台紙の紙質が悪いと影響を受け、黄色や退色を生じる事がよくあります。
高温多湿の環境下で保管をしていると、亀裂などの物理的な劣化やカビの繁殖など生物的な被害も生じます。

*参考資料:
『The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes ALBUMEN』,Dusan C. Stulik, The Getty Conservation Institute, 2013
『The Albumen & Salted Paper Book』, James M. Reilly, LIGHT IMPRESSIONS, 1980


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今回、2種類の技法に注目をしました。

どちらも紙を支持体とする写真なので画像の黄変や退色といった化学的な要因による劣化も気になりますが、破れや亀裂といった物理的な損傷も注意すべき劣化です。
このような物理的な損傷を修復したい!っという場合は、裏打ちをするなど写真や紙を専門とする修復家に依頼をする事で解決へと繋がるケースがあります。
しかし画像の劣化については化学的な処置が含まれるため、積極的な介入は避けるべきだと個人的には思っています。
劣化やその対応、保存修復については「写真の種類と特徴」のコーナー後にじっくり探って参ります。
次回も「写真の種類と特徴」の続きです。【プラチナプリントとサイアノタイプ】編です。


タケウチ蛇足memo

トップ画像の写真はカリタイプという写真です。学生の時、自身が作成しました。
イギリスのニコル(W. W. Nichol)が1889年に発表した技法です。
日本ではあまり普及しませんでしたが、材料が安価であり、色調(黒色、茶色、セピア)も変える事ができるため古典技法のビギナーには魅力的な技法です。
技法の解説は図解の入ったこちらの資料がおすすめです。
『手作り写真への手引き』 荒井宏子著, 写真工業出版社, 1994年
プラチナプリントにも似た良好な画質を得られる事でも知られています。
続きはまた次回に!それでは4週間後にお会いしましょう。


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