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《写真の保存修復を考えてみた vol.6》~写真の種類と特徴5~ by タケウチリョウコ

今日10月13日の誕生花は「アカンサス」です。花言葉は「芸術」「技巧」だそうです。
まさに写真について語るにはピッタリな日と言えるのではないでしょうか。
こんにちは。タケウチリョウコです。


本日も前回記事に続き「写真の種類と特徴5」の【ゼラチン・シルバー・プリント】編です。

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ゼラチン・シルバー・プリントは現在でもよく目にする写真の一つではないでしょうか。
白黒写真やモノクロ写真とも呼ばれ、広く普及した技法の一つです。
この技法で制作された写真作品は数知れず、今でも多くの写真作家がこの技法で作品を制作しています。

私が写真に興味を持ったきっかけもゼラチン・シルバー・プリントでした。
当時5歳だったと思います。祖父に与えられたオモチャカメラにフィルムを装填してパシャパシャと撮影しては(撮影ではなくシャッターを押したかっただけな気がします…。)近所の写真屋さんでプリントしてもらい、その写真を見ながら祖父とはしゃいでいました。
物心がつくと、祖父と写真展に出かけるようになり、そこで出会った写真が私をこの世界に導いたような気がしています。
その写真と写真家はこちらです。


『秋田市追分・板塀』 木村 伊兵衛 1953年

スクリーンショット 2020-07-16 10.57.30


『風景』 植田 正治 1935年

スクリーンショット 2020-07-16 11.01.37


どちらの写真も有名すぎて、ここでご紹介するのがお恥ずかしいです。
写真にご興味がある方や学校で学んだ方ならば、初期に学ぶ日本の写真家と言って良いかも知れません。
私の場合は祖父の影響が大きいと思いますが、しかし今見ても心が落ち着く写真たちです。
どちらもゼラチン・シルバー・プリントで制作されています。
写真の保存修復を考える際、圧倒的にこの技法で制作された写真に向き合う回数が多いです。
早速、その特徴について探っていきましょう。


◾️ゼラチン・シルバー・プリント Gelatin silver print (1880年代中期~現在)

19世紀末に発明され、今日でも使われている白黒写真の印画紙の総称。ゼラチンに臭化銀などの光に感じる物質を混ぜ、紙に塗って乾かしますが、普通は工場で製造されています。この印画紙はとても光に感じやすいので、暗室で感光させたあと現像液に入れて現像します。この印画紙の出現によって小さいネガからの引き伸ばしが簡単になりました。
*東京都写真美術館『写真の技法解説』引用

技法説明はGeorge Eastman Museumが公開しているYouTubeチャンネルを。

【主な劣化】
銀鏡:画像表面に青味がかった金属的な曇りとして現れる。
黄変:硫化や酸化によって画像が黄色や茶褐色に変色する現象。
退色:画像の濃度が低下する現象。
亀裂:湿度の変化によって画像層が膨張と収縮を繰り返し生じる。
カビ:カビが画像に付着し、画像の欠損を引き起こす。

この技法で制作されたプリントは比較的安定しており、取り扱いもしやすいです。しかし劣化の種類が多いのも確かです。
「写真の劣化」については「写真の種類と特徴」の後に詳しく探っていきますので次次回までお待ちください!

*参考資料:
『The Atlas of Analytical Signatures of Photographic Processes SILVER GELATIN』, Dusan C. Stulik, The Getty Conservation Institute, 2013
『Issues in Humidification and Drying of Gelatin Silver Prints』, Brenda Bernier, AIC, 2005

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今回はゼラチン・シルバー・プリントにのみ着目しました。この技法は現像過程を必要とする近代的な印画紙で、工業的に生産され市販されたものです(今までご紹介したダゲレオタイプからゴム印画は一般的に手作りの一点ものが多いです)。種類も様々あります。
「臭化銀ゼラチン印画紙(Bromide paper)」
「ガスライト紙(Gaslight paper)」
「現像紙:DOP(Developing-out paper)」
印画紙の見極めは非常に難しく、印画紙を製造するブランドの特徴なども把握する必要があります。

写真の保存修復では、多くはゼラチン・シルバー・プリントを含む「銀塩写真」(乾板やフィルムも含む)を中心に調査や研究される事が多いです。
また文献も多く残されています。しかし、最近この分野の研究に活気が無いことを個人的に寂しく思っています。

次回は「写真の種類と特徴」の最終回【カラー写真】編です。
こちらは種類と特徴が多く、今から記事にできるか心配ですが…。4週間後も是非ご覧いただけましたら嬉しいです。

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