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《写真の保存修復を考えてみた vol.9》~写真の劣化1~ by タケウチリョウコ

本年もどうぞよろしくお願いいたします。タケウチリョウコです。
今日1月19日の誕生花は「ユキヤナギ」です。花言葉は「愛嬌」「愛らしさ」だそうです。
歳を重ねても「愛嬌」はずっと持ち合わせていたいものです。

本日から新シリーズ「写真の劣化」です。写真の取り扱いや鑑賞に悪影響を及ぼす劣化
どのような問題があり、なぜ劣化が起きるのか?探っていこうと思います。

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前回記事までの「写真の種類と特徴」シリーズでは、代表的な劣化を取り上げていきました。
「写真の劣化」シリーズでは、日常的に接する機会の多いゼラチン・シルバー・プリントを含む「銀塩写真」の劣化について取り上げたいと思います。

まず劣化にはどのようなものがあるでしょうか。
今までの記事で注目した劣化は、「銀鏡」「黄変」「退色」です。
これらの劣化は写真画像に生じるものです。

そして物理的な損傷である「破損」「亀裂」です。
こちらは写真画像や写真の支持体である紙やガラス、フィルムなどにも生じます。

さらに「カビ」は様々な写真に見られる劣化です。

その他に、プラチナプリントでは「支持体の黄変」やダゲレオタイプでは「カバーガラスの劣化」なども記事の中でご紹介しました。


劣化は大きく3つに大別されます。
「化学的劣化」:銀鏡、黄変、退色、変色など
「物理的劣化」:破損、亀裂、欠損、擦れなど
「生物的劣化」:カビ、虫損など

また劣化の要因は3種類に大別されます。
「保存要因」:熱(温度)、湿気(湿度)、光、酸化的雰囲気、還元的雰囲気
「現像要因」:残留薬品、硬膜処理、乾燥条件、搬送方法
「材料要因」:画像銀、カプラー(色材)、染料、顔料、添加剤、
        バインダー、支持体

*『写真資料の保存』 荒井宏子、河野純一、高橋則英、吉田成著 日本図書館協会 2003年 pp31 引用

ここで一枚の写真をご覧ください。祖父が残してくれた写真の一枚です。

画像1

fig.1 private collection (gelatin silver print)


画像2

fig.2 private collection (gelatin silver print)

fig.1は黄変や退色が見られますが、黒と白のコントラストがはっきりしており鑑賞に、さほど問題はありません。
fig.2は同じ写真を角度をかえて見たものです。写真画像の高濃度部(黒い部分)が金属光沢し、銀鏡が生じています。何が写されているのか分かりづらくありませんか。
このように劣化が生じている写真は鑑賞にも影響を及ぼしますが、いずれ劣化が進行すると、この画像さえも見られなくなる可能性があります。

そのため劣化がどうして起こるのか?その原因を知る事はとても大切な事だと思うのです。
しかし、すでに制作された写真の劣化の要因を究明することは容易なことではありません。
「劣化の要因」で紹介をした「現像要因」と「材料要因」については、現在では解決する手立てがないからです。制作当時の現像方法を詳細に知ることは出来ませんし、材料を当時のまま入手することも困難だからです。

そこで、銀塩写真の劣化研究は「保存要因」に注目した報告が非常に多い傾向にあります。
温度や湿度、光がどのように劣化に起因するのか。次回からは「化学的劣化」、「物理的劣化」、「生物的劣化」のそれぞれに注目して、詳しく探っていこうと思います。

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さて次回は「写真の劣化」の続き、化学的劣化である銀鏡に注目します。
なぜキラキラ光ったものが出現するのか?
それでは来月にまたnoteを見に来て頂けましたら嬉しいです。


タケウチ蛇足memo

本日のトップの写真&fig.1と2の写真は、大正12年の関東大震災の浅草の写真です。
祖父が写真の裏に丁寧にメモを残してくれていました。

画像3

12階建の凌雲閣が途中から崩れた様子を嘆いた記録が綴られています。
富士山を眺める癒しの展望塔が崩壊したことは、当時の人にとって大変なショックだったのだと思います。
日本はとても自然災害が多い国なので、この一枚の写真を見ると過去の教訓を感じざるを得ません。

コロナの影響を感じざるを得ない今、2021年も大変な年になりそうです。自然と向き合いながら、少しでも平穏な年になりますうように。

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