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おかえりモネに見た夢の話
はじめに
2022年10月、気仙沼市で開催されていた『おかえりモネ展』を見てきました。10月末で終了だったので、ぎりぎり間に合ったという感じです。
仕事で福島まで行く機会があったので、それならついでにモネ展を見ておこうと気仙沼まで足を運んだわけです。気仙沼へ行くには福島から新幹線で一関まで行って、そこからレンタカーで1〜2時間なので、ついでに行く距離ではありませんが…それでもモネの展示会なので。久々に気仙沼を訪れました。
モネ展の会場には、ドラマのワンシーンや雑誌に掲載された内容を拡大印刷したパネルが部屋いっぱいに並べられており、キャストの等身大パネルもあるなど、ドラマの世界観満載でコアなファンには嬉しい空間になっていました。
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無料の展示会でしたが、オープニング映像で象徴的な七色の布が展示されていたり、モネのイメージスケッチ(たぶん役者が決まる前に書かれたもの!?)が展示されていたりと、個人的に見れてよかったなと思うものがたくさんありました。
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さて前置きはこれくらいにして。
実はこのnoteを書こうかどうしようか、ずっと考えていました。ただ放送終了からもう1年も立ちますし、もういいでしょ(?)ということで、モネ展を見に行ったことをきっかけに書く気持ちになりました。
ということで、今回は一視聴者の立場で、また気象予報士の立場で、おかえりモネの感想を書きたいと思います。
おかえりモネと気象予報士
2021年5月、世界的に大流行した某ウィルスの影響で予定より遅れて放送開始したNHK朝ドラ『おかえりモネ』の初回放送日、私は様々な思いが入り混じった不思議な気持ちでテレビを見ていました。
おかえりモネは、主人公の永浦百音が気象予報士になることは最初から公開されていたので、気象予報士の間では早くから話題になっていました。
というのも、これまでの気象予報士を扱ったテレビドラマ(※1)は、リアルさよりストーリー性を重視した天気変化の設定だったり、恋愛メインのドラマの登場人物として気象予報士のお天気キャスターが登場する設定だったりして、ガチ気象を描いたドラマはほとんど存在しなかったからです。
(※1)
私もすべてのドラマを最初から最後まで見たわけではないので、思い込みもかなりあるかもしれませんが…
例えば管制官を描いたドラマ『TOKYOコントロール 東京航空交通管制部』は管制の現場がしっかり描かれていますが、これほどガチのドラマは気象関連ではまだなかったと思います。
一方で、おかえりモネは気象予報士が気象考証に入っているということで、気象観点ではこれまでにないクオリティの高いドラマになる期待が高かったのです。
実際、おかえりモネの製作にはとても多くの気象予報士が関わっていました。その甲斐があってか、気象考証という側面では今までにないクオリティに仕上がっていたと思います。
もちろんドラマに出てきた全ての気象現象がリアルそのものだったという訳ではなく、ストーリー上の重要なシーンでは演出を優先した設定(彩雲の出現とか)もありました。
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それでもリアリティ高すぎるところはたくさんあって、例えばモネが生まれた時に襲来した台風は実際の台風がモデルになっていますし、サヤカさんの誕生日なんてカスリーン台風(※2)そのものです。温暖前線で雨が降る、なんてシーンもありましたね。
(※2)
カスリーン台風は1947年9月に日本に接近し、関東地方や東北地方に甚大な洪水被害をもたらしました。当時の日本は連合国軍の占領下にあったため、台風の英名もアメリカと同様にABC順に女性の名前が付けられていました。
なお最後に写真を掲載しますが、一関市の街中にはカスリーン台風時の洪水の水位を示す看板が立っています。
そんな感じで多くの気象関係者はおかえりモネを気象予報士のドラマだと思っていましたし、私も最初はそう考えていました。
しかしそうではなかった、気象予報士というのはサブ的存在でしかなかったことは、ドラマを見たら明らかだと思います。
つまり、おかえりモネの真の主題は、震災後の東北の復興であり、人それぞれに震災で負ったキズを抱えながらも懸命に生きる東北の人々の姿を描くこと、だっただろうと思います。モネとりょうちんのキズは序盤から明らかになっていましたし、みーちゃんと亜哉子さんは終盤になって衝撃の告白をしていました。
主人公のモネは震災のとき何もできなかった経験から人の命を救いたいと思い、自然災害と向き合うような職業を選んだ、それが気象予報士だったということなのでしょう。
それでも、自然災害に向き合う職業は他にもある中で、脚本家さんやドラマ制作者さん達が気象予報士を選んでくれたことは嬉しく思いますし、その背景には近年甚大化しているといわれる気象災害の存在もあったんだろうな、というように思います。
気象予報士ドラマの新境地
主題ではなくとも重要なサブ要素であった気象予報士ですが、個人的に強く注目した点は『気象予報士になったモネが気象会社で働く』という設定でした。この設定を知ったとき、私はこのドラマに一つの夢を見ました。それは何かというと…
先にも述べましたが、これまでの気象予報士ドラマでは、気象業務の現場がしっかり描かれることはありませんでした。なので『気象会社で働く気象予報士』という存在が明確に予告されていて、かつ主役というドラマは初めてのことでした。
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私は個人的な思いとして、おかえりモネの中で、お天気キャスター以外で社会で活躍する気象予報士の姿が描かれることを期待しました。世間一般的な気象予報士のイメージは、いまだにニアリーイコールでお天気キャスターです。しかし他にも気象予報士が活躍している場はたくさんあるので、そっちも描いてほしいなと思っていたのです。その一つが気象会社です。
おかえりモネの第2部では、パラスポーツ選手を気象面からサポートする、というストーリーが取り入れられていました。スポーツ気象は比較的新しい領域で、まだまだ事業として成り立たせるには時間がかかるかもしれませんが、気象データを活用する分野として私も注目しています。
とてもレアな題材が採用されたなと思いますが、それもこれもたくさんの気象関係者が関わって制作されたドラマならではと言えるのではないでしょうか。
夢はかなったか
『主人公が気象予報士の資格を取って気象会社で働く』という新境地を切り開いたおかえりモネですが…
ちょっと厳しい評価になりますが、夢に見た『ガチ気象業務の現場で活躍する気象予報士を描く』ところまでは至れなかったのかな、と思いました。
上京してお天気キャスターデビュー
Uターンしてラジオのお天気コーナーのパーソナリティ
つまり、気象会社に所属するお天気キャスターだったということで。
「モネちゃん、そっち!?」って、心の中で突っ込んでしまいました😅
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誤解がないように書きますが、お天気キャスターは社会的認知が確立している(おそらく唯一の)職業気象予報士ですし、『伝える』という大事な役割を担う必要な存在です。
私がここで述べたいのは、『気象予報士 ≒ お天気キャスターだけ』というこれまでの社会通念を刷新したいと願っていた私としては、おかえりモネでもこの殻を破れなかったという結果だったので。
あくまで個人の、一視聴者としての感想としては、もう一歩踏み込んでほしかったなあと思うのです。
せっかく気象会社に入ったのに。
台風が接近・上陸するときに特別体制を敷いた予報センターの緊張感ある独特な雰囲気…
予報シナリオを立てる際に激論を交わす予報現場…
先輩からの愛ある厳しい指導…
自分の予想とは異なる変化を見せる天気実況を見ている時の、焦りと無力感…
予測が難しい状況で締切ぎりぎりまで考え抜いた気象予報の、その発表ボタンを押す時の、高鳴る心臓の音や、震える手や、汗ばむ手のひら…
予報業務に携わる気象予報士の現場の雰囲気は、ほとんど描かれることなく終わってしまったと思います(※3)。
それでも!次回(がいつになるのかわかりませんが)また気象予報士ドラマが制作される機会がありましたら、ぜひ新しい気象予報士像も描いてほしいなと願っています。その時は私にお声がけ頂きましたら、全力でサポートさせていただきます😃
(※3)
聞くところによると、韓国にはそういうドラマがあるらしいです。
おわりに
ということで、気象予報士ドラマの新境地を切り開くと私が勝手に期待してきた『おかえりモネ』。
気象会社に踏み込んだ点は良かったものの、多様な気象予報士キャリアがドラマで描かれるためには、まだまだ社会的認知拡大のための努力が必要なのだな、ということを痛感した、そんな個人的感想でした。
気象予報士の裏方の現場の仕事って、十分ドラマになるような、ハラハラドキドキな要素も持つ魅力的な仕事だと思うのですよね。認知拡大のため私ももっと頑張らねば、と思います。
それから、テレビが描いてくれないなら自分でnote書いちゃおうか、とか考えています。いつになるかわかりませんが、気象会社で予報業務に携わる気象予報士の現場のリアルを書いてみたいと思います。気象データを扱う仕事、っていうのもいいかもしれませんね。
では最後に『おかえりモネ展』の様子など、写真をご紹介して締めたいと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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