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Don’t look back in anger

Don’t look back in anger

「ねぇ、アレックス。いつまでふてくされているの? 会社で起きたトラブルなんて、今家で文句を言っても何も解決しないじゃない」
 仕事から帰ってすぐ、リビングのテーブルにバッグを放り投げた後、ソファで悪態をついた俺に対して、小言を言ってきたリズが、時間を置いてまた小言を言ってきた。
「別にふてくされてなんかいないよ。もうほっといてくれ」
 俺はリズと同じ場所にいるのが嫌になり、タバコの箱とライターをポケットにいれ、現金を手で掴み、家から出た。

 とりあえず、数キロ離れた場所にあるパブへ行くことにした。さっきまで家で酒を飲んでいたが、もっと度数のキツイ酒でも飲まないとやっていられない。少しは冷静になる必要がるとは頭でわかっているが、とても出来そうにない。
 タバコに火をつけ、ふかしながら歩いていると反対側から歩いてきた老人が注意してきた。「お前から説教される覚えはない」俺は相手の顔を見ることなく言い放った。今日はツキが全くないらしい。酒を飲んで全て忘れよう。

 パブの中に入り、奥の席に座ってウォッカを注文すると、大学の同級生だったダニエルが店の中に入ってきた。
「よう、アレックス。来てたのか。家で彼女と一緒じゃなかったんだな」ダニエルは俺に気づくと正面に座って話しかけてきた。
「あぁ、ちょっと家から出たくなってな。それでここに一人で来たんだ」俺はぶっきらぼうに答えた。
「家から出たくなったか。あんな可愛い彼女と一緒に住んでいるのに贅沢なやつだよ。喧嘩でもしたのか?」
「喧嘩はしてないけど、小言に耐えられなくてな。それに……」俺は会社の出来事も言うか躊躇したが、ダニエルは見逃してくれなかった。
「それに何だよ。溜まっているなら全部言ってしまえばいいだろう」
「会社でちょっと揉めててイライラしているんだ。家に帰ったあと怒りが収まらなくてな。ついついリズにあたってしまうんだ。」俺は自分で話していて、少し情けなく感じたが、すぐにその考えを振り払った。
「おいおい、急いで帰って謝ったほうがいいんじゃないのか?」
「ダニエルお前まで説教してくるのかよ。それより、もっと飲もうぜ。ダニエルだって飲みたくて来たんだろう?」
「ああ、そうだな。嫌なことは忘れるに飲んで忘れるにかぎるな。仕切り直しで乾杯しよう」
 それから俺たちは昔話に花を咲かせた後、だいぶ遅い時間に別れを告げ、千鳥足でなんとか家に帰った。

 ぎりぎりリズが寝る前に家に着いたのか、リビングの明かりはまだ点いていた。だが、玄関を開けるといつもと違う感じがして、少し良いが醒めた。
「リズ、ただいま。さっきは悪かった」リビングのドアを開けながら言ったが、返事はなかった。いつもリズが座っている場所には誰もいなかった。寝室にもいない。鼓動が早くなる。まさかとは思いつつもリビングに戻るとテーブルの上に手紙が置かれていることに気づいた。俺はすぐに読み始めた。

『アレックス、一体どうしてしまったの? ここ最近の振る舞いはおかしいわ。さっきおじいちゃんが家に来て、あなたとすれ違ったことを話してくれた。歩きタバコをしていたから注意したら暴言を吐かれたって言っていたわ。おじいちゃん、かなりショックを受けていて、落ち込んでいるみたい。そんな態度をとっていたら周りから人がいなくなるわよ。
 怒りに身を任せず、もっと冷静になって。私は実家に帰るから。大好きなアレックスに戻ってくれることを心から願っている。 リズより』

 俺は手紙を読み終えた後、しばらくその場から動けなった。色々な感情が頭の中を駆け巡ったが、怒りの感情が残った。リズのために仕事をして金を稼いで、トラブルがあっても我慢して働いている。それなのになぜわかってくれないんだ。怒りのピークに達したのか急に疲れを感じ、何もする気がおきなくなり、ベッドにうつ伏せに倒れこんだ。

 目覚まし時計の音で目が覚める。視界が定まらず、頭が痛いが、なんとかベッドから起き上がった。リビングに行くといつも用意されている朝飯がテーブルの上に置かれていなかった。リズが出て行ったことをふと思い出した。仕方がないので、フライパンで卵とウィンナーを焼くことにした。昨日のことを思い出し、少しフライパンから目を離すとウィンナーは焦げ、卵は硬くなっていた。全てが嫌になりそうだ。

 放心状態で会社に着くと、ここ最近ずっと仕事で揉めていたボブが話かけてきた。相変わらず議論は平行線上で、お互いに主張をゆずらなかった。とうとうボブがしびれを切らしたのかオフィスの真ん中で暴言を吐いてきた。俺はかっとなって相手の胸倉を掴みそうになったが、リズの手紙の内容が頭に浮かび、衝動を抑えた。怒りに身を任せず、冷静になるんだ。
 俺がボブに対して反応せずいると、オフィスにいた同僚たちが味方をしてくれた。今までずっと無関係を装っていたのに。そういうことだったのかと俺は悟った。

oasisのDon’t look back in angerにインスパイアされて書きました。
苗場で皆と一緒に歌いたいです。

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