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レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ― ウィーンが生んだ若き天才@東京都美術館

 東京都美術館で開かれた「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展」を観賞してきました。日本国内で彼の作品を収蔵している美術館は少なく、また、これまでに僕は、エゴン・シーレの作品をじっくりと観賞したことがありませんでした。東京では30年ぶりとなる大規模展で、彼の画業を一気通貫で見られるまたとないチャンスと思ったのが観賞のきっかけでした。ゴツゴツした線描や大胆にディフォルメされた形状、独特の色遣いを直接、肌で感じてみたい期待もありました。


 シーレは1980年に生まれ、28歳で亡くなりました。最年少でウィーンの美術学校に入学したものの、保守的な教育に満足できずに退学、早くから画家として独り立ちを始めたそうです。短期間にうちに独自の画風を作り上げて夭逝したしたのは、2月に観賞した佐伯祐三と同じですが、シーレが人物を多く描いた一方、佐伯が自画像や人物を描かなくなった点で大きく違っています。展覧会は、世紀末ウィーン美術を8000展も収蔵しているレオパルド美術館のものを中心に全13章で構成、シーレの作品50点に加え、クリムトやココシュカらの作品も展示されていました。会期末が近づいていたため、会場はやや混んでいましたが、十分に楽しむことができました。


 最も気になった作品は、フライヤーに採用された《ほおづきのある自画像》です。正方形に近い横長のキャンバスに、彼自身のバストショットとオレンジ色に色づいたホオズキの果実やつるを描いた作品です。主要なモチーフであるシーレ自身は、正面に向かってやや右側に配置されています。身体を右側に向けつつも、首を正面にねじり、あごをやや上げています。挑発的にも、傲慢にもみえるポーズです。シーレの大きな目が、鑑賞する僕の目とパチッと合いますが、その眼差しは、どこか不安さを抱えているようにもみえます。相当、複雑な性格の人物なのではないかと想像せざるを得ません。顔の輪かくは直線的な線でしっかりと描かれています。デフォルメはやや弱めで、ゴツゴツした印象を受けました。肌には赤や、青、草木色の絵具が幾重にも重ねられ、まるで血管のようです。一方で衣服は、多彩な色彩の顔とは打って変わって黒一色。不規則な筆の跡も残っています。衣服のすぐ脇や目と同じ高さに配置されたホオズキのオレンジ色がアクセントになって目を引きます。見どころが多く、目を離すことがなかなかできませんでした。

 《母と子》も長時間、釘付けになった作品です。子どもにぴったりと顔を寄せる母親は大胆にデフォルメされている上、目や口を堅く閉ざしている一方、水色で描かれた子どもの目は何かを恐れているようにこちらを凝視しています。子どもを抱き寄せる母親の手とは対照的に、子どもの手は大きく開いています。伝統的なキリスト教絵画では、母子像は無償の愛の象徴とされているそうですが、この作品にはそうしたイメージを抱くことができません。シーレは、対照的に描かれた母親と子どもの間に、一体どのような関係性や象徴を盛り込もうとしたのでしょうか。

 たくさんのしわが寄った広い白いシーツの上で脚を対照的に開き、男性を誘惑しているような、長くて濃い茶色の髪の女性を描いた《横たわる女》にも魅了されました。こんなにあからさまに性的なポーズを描いた画家は、シーレ以外にはちょっと思いつきません。グレーに濁った白色や沈んだ赤身のある灰色、暗く赤身のある黄色といった彼独特の色彩は残っていますが、これ以前の他の作品と比較するとゴツゴツ感やデフォルメは弱まっています。表情を読み取ることも難しく、画風が少し変わったような印象を受けました。何かきっかけがあったのでしょうか。とても気になりました。


 短かった画業をテーマごとに観賞したことで、シーレが自画像や人物だけでなく、風景画も多く描いていたことを知りました。彼の風景画は、自己愛の強そうな自画像と変わって、どことなく寂しげに感じました。また、作品には油絵具だけでなく、ガッシュを多用していたことも初めて知りました。その理由は本人に聞いてみないと分かりませんが、多作だったのと関係がありそうです。

 死や性行為といった倫理的に避けられがちなテーマの作品に強烈な印象を受けましたしたが、私生活も強烈でした。12歳も年上のクリムトに対して「私は天才でしょうか」と訊ねたエピソードには自己愛の強さを感じます。才能があるにもかかわらず、さらに称賛を求めるような人物を、僕は苦手としています。また、モデルを巡って誘拐やわいせつ罪で告訴され、1カ月ほど勾留されたり、結婚を機に長く私生活を支えてくれた女性を捨たりといった僕には出来そうにもないエピソードもありました。

 

 自らの表現を突き詰めようとした作品にも、自己愛の強さを感じさせる私生活にも、十分に凄みを感じることができました。ただ、「同じ職場や学校のクラスにいても、仲良くはなれそうにないな」とも思いました。作品は魅力的ですが、少し距離を置いて作品を観賞するのが、適切な距離感のように思えた展覧会でした。           (観賞日:令和5年3月29日)

「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展  ― ウィーンが生んだ若き天才」
会期 2023年1月26日 (木) ~ 4月9日 (日)
会場 東京都美術館
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、朝日新聞社、フジテレビジョン

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