世界遺産 三谷坂を歩いて②【和歌山・取材記事】
丹生酒殿神社から丹生都比売神社へと続く、世界遺産・三谷坂。ここからはうっそうと杉の立ち並ぶ山の中へと入ってゆきます。
涙岩・拝水(おがみみず)
杉木立の中を歩いてゆくと、ほどなく現れるのが大きな平たい涙岩です。かつてはどんな日照りの時でも水が枯れることがなく下流の村々を潤したことから、この名が付いたそうです。
古い時代には、標高の高いこのあたりでも稲作がおこなわれていたとのこと、水田の痕跡らしき石積みをあちらこちらで見ることができました。
ここまでの道々には瀬の水音とシュレーゲルアオガエルの声が響いていて、三谷坂の通る一帯は水に恵まれた土地なのだと、改めて感じました。
頬切地蔵(ほきれじぞう)
三谷坂は天野までの最短距離を結ぶ道なので、九十九折にはなっておらず、とても傾斜の強い坂道です。
きちんと整備はされていますが、歩幅の合わない階段や足元の悪い道が続き、歩き疲れてお腹も空いて、そろそろ気持ち的にも参ってきた頃、頬切地蔵にたどり着きました。
お地蔵さまの前には四阿(あずまや)があり、荷物を置いて一休みすることができます。
それぞれの携帯食も広げて、ゆっくりとおやつタイム。
北岡さんの持ってきてくださった「はるみ」の甘さと酸味が疲れた体に染みわたりました。
頬切地蔵は地面からにょっきり出た岩石の三方に、大日如来・釈迦如来・阿弥陀如来を彫り出したもの。南側は岩石そのままのかたちとなっており、自然と一体化した仏様の姿に、原初の素朴な信仰心を感じました。
仏様のお世話をしている方がおられるようで、傍らにはラミネート加工をした般若心経や光明真言などがまとめて置かれており、北岡さんが持参したお線香を手向けてくださる中、皆でお経をお唱えしました。
仏様とのご縁に感謝です。
頬切地蔵、の名は、大日如来さまの頬に岩の割れ目が通っているから、とのこと。首から上の病にご利益があるとされています。
まっとう岩
三谷坂のルートを少し外れ、狭い坂道を登ってゆくと、杉木立の中、左手上方に大きくそびえる岩が見えてきます。それが「まっとう岩」です。
かつて、まだ杉が茂っていなかった時代には紀ノ川の対岸からもこの巨岩が見え、天野への目印になったのだとか。
「まっとう」の名は「的」や「馬頭」など諸説あり、よくわからないそうです。
いよいよ天野の里へ
ずっと続く坂道を登り切り、ようやく笠松峠の頂きに到着。いったんアスファルトの車道へ出た後、標識の矢印に沿って再び山の中へ。
少々荒れた道を下り、緑の木々のトンネルを抜けると……パアッと目の前に明るい春の天野の風景が広がりました。
見事、三谷坂を踏破です!
長い間、山の中を歩いていたので、平らかな田畑がとても広く見えて、
「やっと人の世界に戻ってきた」
と、しみじみ感じてしまいました。
この日は天野に鎮座する、丹生都比売神社の花盛祭。うきうきと華やかなお祭りの雰囲気に包まれながら、私たちも花盛祭の渡御行列を見せていただくことにしました。
(~③へ続く)
(ライター部:大北美年)