見出し画像

飽きてからというより飽きるまで?ロロ「飽きてから」感想

すごくいい演劇を見てしまった!こういうバチーンと決まったエンタメを楽しむたびに日本に、東京に住んでいて良かったと思う。心の奥の共感しづらいところをつつくようなものを見ると嬉しくなる。すごく私向けの劇だった、共感しやすく、自意識をくすぐるような。
上坂あゆ美さんのXの紹介で知ったこと、短歌と演劇という同じものはなさそうなエンタメであり期間もすぐに終わってしまうこと、ポスト花束(花束みたいな恋をした)だという投稿を見て急遽行くことを決めたのだが、マジで見て正解だった。

【以下、見た人向けの感想】

短歌+演劇の組み合わせは奇抜かな?と思ったけど、ある程度短歌と劇の文脈が読める人なら脳味噌をくすぐるくらいの理解の難易度で、この演劇を見に来るような人ならあの良さを受信できると思った。表示の瞬間のあの感じとか、俳優さんの演技とか、音楽とかタイミング良すぎるかつ短歌と演劇にしか表現できない妙で、あんないいものを自分の短歌で作ってもらえたら普通に泣くと思う。

引き合いに出すのも何だが、数年前に最果タヒの詩を元にして作られた映画があり(夜空はいつでも最高密度の青色だ)、当時タヒちゃんに激ハマりしていたため見に行ったのだが全然楽しめなかったことがある……だから今回、詩、短歌というジャンルがきちんとエンタメに昇華されているのが衝撃だったのだ。最果タヒの詩はかなり感覚的かつ刹那的なので、そこが人生を描写する生身の人間が出てくるエンタメ物語とはあまり合わないのかもな。上坂さんは素性をかなり明らかにしているし、彼女自身の体験した人生を詠んでる感じが明確にするから。

さて、飽きるまでだが、ポスト花束という感想はかなり同意できる。
18〜20代前半の若者が、意気投合してすぐ共に住むようになり、経済格差やそれに伴うモラトリアムの延長、仕事の大変さや考え方の違いで緩やかにすれ違う。
崇高な理想を掲げるあおちゃんは大学院に行ってなお専門学校代を親に出してもらおうとし、ゆきゆきは激務から鬱になったのだろう。しっぽは毒親から逃げた先で呼び戻され、きっと親への諦念と安定した暮らしの狭間で時を受け流して5年経ったころ戻ってきた。
描写されなかったところに現代の若者がかかえていそうな問題がはめ込まれて、1時間半の中でめくるめく人間関係が展開された。

そして、花束もそうだったけど、2018年〜前後に大人になったサブカル周辺生息者としてあの共感できる固有名詞の連発には痺れた。
チョコザップ、カルピス、ピザポテト。ヒゲダンのプリテンダー。
そしてとくにApple PencilとiPad airをプレゼントしたシーン。あれ使って漫画を描いてる者としてはマジ怖くて良かった。2019年って時期もぴったりだ、私もその頃iPad pro買って賞に出すための漫画描いてたよ…。しっぽとしてはあんな戯言を真に受けられてかつ、見るからの高級品をなんの日でもないときに渡してきた2人と自身との経済力のギャップと、それへのやるせなさの方が大きかったんだろうな。それにしてもしっぽを完璧に演じていた上坂あゆ美さんは何者なんだ?歌人か(老モテポチらせていただきます。)

ただ「飽きてから」というタイトルはどういう意味だったのだろう?冒頭部分、笑点を見ていた彼らはたしかに日常に飽きまくっていたが、私が特に印象に残ったのは2024年9月、彼らが日常に飽きているさまというよりは2016年〜20年、そして冒頭に至り飽きるまでの物語だ。
飽き飽きして別れが冗談みたいに本気みたいに話題に上がってなお、色々なことを確認し合ってそれから続いてく未来に思いを馳せるみたいな話、だったんだろうか。飽きるまでに色々あったよね、飽きてから、これからどうしよっか、(とりあえず三人でいよっか。でも)家族にはならないよ。みたいな。
あの最後の確認はあの三人にとっては大切なことだったのかな、本当に?「家族になってよ、指輪を渡してはいハッピー」とは真逆の終わり方で、でもくす玉は割られてきっとあの三人は今もあの部屋にいる。

まあ、いつかは終わりが来るんだろうという予感のある幕引きだったけど。
しかし、明日で千秋楽を迎える演劇の中ではあの三人は永遠なのだ。

飽きてからというのは、ある種私たちに共通した、共感しやすいタイトルだったように思う。飽きてからの物語。ある程度の時をこの世で過ごした人なら何度も思う日常がつまらないという気持ち。
「飽きてから」がその繰り返しと年月を一時間半で感じさせてくれたのはすごいことだと思う。

これを見てから行く人はいないとは思うけど、明日がラストらしいので応援したい。
演劇、また来たいな!

p.s.
なお、あの素晴らしい舞台に比べたら些細なことだが、ロロの場所はホテル街であった。あの劇場は渋谷の道玄坂を抜けた、え?と思うような通りにあり、ラブホとラブホに挟まれていた。
そして開場前、劇場前には他の舞台の出待ちをしていると思われる若い女子が沢山おり、それをホストらしき男どもが立ちんぼにしか見えねえwと言っており世も末‼️
そして観劇後は帰路につく私の歩く煌々と照るラブホの光に照らされた道の脇を例のマリオカートに乗った外国人がブイブイ通り過ぎ、彼らに若い男たちがウェーイ!とハイタッチを求めていてこれもまた世も末‼️でした。

画像は帰り、明大前で食べたラーメン。美味でした。
しばらくは君がすいかなんか🎵買ってくるから〜🎵を聴きながら過ごすぞ!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?