蛸の脳、人の脳
こんにちは。
薄墨というものです
頭足類っておもしろい!
つい最近、『タコの心身問題』という、哲学と生物学の中間みたいな哲学書を読んだのです
内容は、「遊び」や「イタズラ」など、“意識”と“知能”を感じさせる頭足類のタコの、神経系やコミュニケーション能力、脳の発達段階の様々な様子や研究から、生物及び人間の進化の過程のどこから“意識”が現れたのか?ということを推察し、そこから意識とはどういうものか?を考える、という話。
タコが思いの外、賢いというのは、もしかしたらみなさんご存知かもしれません。
実際に、タコのニューロン(電気信号を伝達したり、周囲の物質の変化を読み取ったりして、細胞間の情報をやりとりする張り巡らされた器官。発達しているほど、複雑な思考や知能が高い傾向が見られる)は多いのだとか。
しかし、そのニューロン、私たち人間のような哺乳類はほとんどが脳に集中してあるのに対し、タコなどの頭足類のニューロンは体に満遍なく広がっているそうで。
これで何が分かるのかというと、神経と行動の違いらしく。
哺乳類は、脳が中央集権的に、脊髄や脳から体の各器官に指令を出して動かしているのに対し、タコは脳以外の他の体の器官もその器官の感じた判断によって行動できる、つまり合衆国みたいな感じで、足のそれぞれに自我があって、ある程度体の全体を制御して、だいたいの行動を決めるのが脳なのだとか。
ここで私、ふっとある本の中で語られていた発狂論を思い出したのです。
それが『ドグラ・マグラ』の正木博士の研究成果に出てくる論文(?)の「脳髄論」。
以下、その「脳髄論」を私なりに噛み砕きまとめた内容です
脳髄はただの蛋白質に過ぎず、手にも足にも体の全ての器官にそれぞれ、考えがあって、欲望がある。
普通の人の脳髄はその器官たちを抑えていて、器官たちは理性を保って役割を果たす。ところが、何かの事情で脳髄が器官たちを管理できなくなったら、めいめいの器官が、それぞれの考えで動き出し、それが結果的には狂った行動として現れるのだ。
と、こんな感じの説。
『ドグラ・マグラ』を読んでいた時は、はえ〜、なるほど、面白い説だなあと読み流していたのですが。
…これ、タコの神経系と体の作りって、まさしく「脳髄論」なのでは?!と。
…『ドグラ・マグラ』って、三代奇書だとか、読んだら発狂する本だとかって肩書きと、Yahoo知恵袋の洒落の効いたベストアンサーの影響で、訳のわからない狂気本みたいなイメージで倦厭されがちですけど、こんな感じで、じっくり読むと興味深いことが出てくるんですよね
特に正木博士の研究成果パート。
もう一つの正木博士提唱の話、「胎児の夢」も面白い。(多分、こっちの方が存在感が強い)
話を戻します。
つまり、タコには「脳髄論」みたいなメカニズムを踏む発狂や病気が有り得るってことですよね…
すごく興味深い!
そんな事例はないのか?!とワクワクしてしまいます!
ところが、読み進めてみると、なんとタコの寿命は2〜3年ほどの短い命。
頭足類は、生殖を終えた時に一生も終える、とても短命な種らしく…
人間以上に儚いタコたちには、発狂している暇なんてないかもしれません…
さて、『タコの心身問題』は2018年発行の精密な現代研究に対し、『ドグラ・マグラ』は1935年発行の想像を元にした物語。
物語の想像上の人物とはいえ、正木博士の鋭い洞察には、凄まじさを感じます。ヒトとは違う知能の発達の仕方をしたのが頭足類ということらしいので、彼の説は現代的にはちょっと的外れですが。
そんな突飛な現実を冷静に導き出して、しっかり説明したこの研究も凄まじい。
世の中には凄い世界がいくらでも転がっているんだなあ、とすっかり感心しました。
以上、最近考えたことを書き散らしたものでした
今回の読書記録
最後に、ここに出て来た本の書誌情報をサクッと記録しておきます。
気になった方はぜひどうぞ
あ、あと、もし『ドグラ・マグラ』の良い装丁の本を知っている方がいたら、ぜひ教えてください!
日常的に、子どもや未成年と接することが多いので、刺激の少ない表紙の『ドグラ・マグラ』が欲しいのですが…今書店に並んでいる文庫の表紙は強烈なんですよね…
『タコの心身問題』ピーター・ゴドフリー=スミス 夏目大(訳)/みすず書房
『ドグラ・マグラ』夢野久作/青空文庫
蛇足
タコって、地域や国によって、結構印象が違いますよね。
日本だと、ひょうきんでどこか愛嬌があって、おまけに美味しい海の幸って感じ。
ヨーロッパや北アメリカだと、恐ろしく得体の知れない化け物って感じ。
旧支配者のクトゥルフとか、その最たる感じありますよね
『タコの心身問題』でのタコに対する言葉の端々にも、畏敬の雰囲気を感じました。
しかし、日本人の私は、タコが美味しいことを知っています。
本を読みながら、頭の片隅は反芻しています。タコの脚のニューロンを噛み砕く美味しさを…
こうして書き付けている今も、私の食欲は「そんなことよりたこ焼き食べたい!銀だこ!いきたい!」と唸っています。
嗚呼、タコ食べたい!
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