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夜の停留所で 伊藤静雄
室内楽はピタリとやんだ
終曲のつよい熱情とやさしみの残響
いつのまにか
おれは聴きいっていたらしい
だいぶして
楽器を取り片づけるかすかな物音
何かに弦のふれる音
そして少女の影が三四おおきくゆれて
ゆっくり一つ一つ窓をおろし
それらの姿は窓のうちに
しばらくは動いているのが見える
と不意に燈が一度に消える
あとは身にしみるように静かな
ただくらい学園の一角
ああ無邪気な浄福よ
目には消えていまはいっそうあかるくなった窓の
影絵に
そっとおれは呼びかける
おやすみ
(『伊藤静雄詩集』昭和二十八年)
伊藤静雄 いとうしずお
明治三十九年、長崎県に生まれた。「コギト」、「四季」同人。
ドイツのロマン派、特にヘルダーリンの影響下に、硬質で透明な抒情詩を
書いた。詩集『わがひとに与うる哀歌』『夏花』など。
昭和二十八年、四十六歳で没した。