怪異が本当に出る町 第九章「件」
僕はフラフラと町を歩き出した。
お昼だけど霧が深く足元に絡みつく
深い
深い
深い
霧の中を水の中を歩く様に進んでいく。
そんな中で
パン
パーン
と柏手を打つ音が聞こえてきた。
目の前に鳥居が見えてきた。
血のように赤い鳥居
鳥居の奥から激しく鈴を鳴らす音が聞こえてきた、その直後に小銭を床にバラまく音がする。
「あ…あぁぁ…」
こちらの境内の石畳まで小銭が転がってきた…5円玉がコロコロと転がって来る。
5円玉を拾って他の小銭も拾うが…寛永通宝やらの古銭も混ざっている…。
「すみませーん」
向こう側から着物を着た女性がやって来た。
彼女の顔を見て
僕は絶句した…。
彼女の顔は牛の顔だった。
最初は特殊メイクか?
なんて思ってしまったがリアルな牛の顔が着物の女性の身体に鎮座されてる?
僕は唖然としてしまったが
彼女は
「ふーん…なるほどね今回は牛の顔なのね」
フムフムと言いながら
ポケットから何やらカマボコ板を取り出して変なポーズを取りながら歩いている?
変なダンスを踊っているみたいだ…
「なるぼどね♪これカマボコ板に見えるんだ」
なかなかやってくれるわねぇ
彼女の口からヨダレがダバダバこぼれる…
「今回の散歩も見事に迷子なんで、ここがどこなのかサッパリわからないけど…」
そう言うと彼女の瞳がキランと光った。
「これ食べる?美味しいよ」
「『チロリアン』は、新鮮なミルクとバターを使用して焼き上げられたロールクッキーに、なめらかなクリームが入った逸品です。
ロールクッキーのサクッとした食感と、昔ながらのシンプルな甘さのクリームを楽しむことができます。
味はバニラ・コーヒー・ストロベリー・チョコレートの4種類で、半年ほど日持ちします。」
賽銭箱に向かって話している
誰に話しているんだろう?
僕に差し出された彼女の手のひらには『チロリアン』がいくつか転がっている。
「ありがとう…」
僕は『チロリアン』を口に放り込む甘くてサクサクして美味しい。
彼女の名前は『件ちゃん』
実話怪談作家さんの出汁だと言っていた。
出汁?弟子じゃないのか?って聞くと『出汁』なんだって…『一番出汁』って言ってた。
そんな話をしながら、何処から取り出したのか博多ラーメンを食べている。
麺を食べ終わったらしく賽銭箱の上にある鈴のヒモを片手てフリフリしたら鈴が割れてラーメンの麺がラーメンどんぶりにダイブした。
それを豪快にすする件ちゃん
三口でラーメンを食べ終わった。
「ダイエットしてるから替え玉は1回だけにしとこう。ダイエットって厳しいわ」
そんな事を言ってる彼女の手には、ごぼう天うどんが乗っていた。
「うどんはカロリー0キロカロリーだもんねぇ」
豪快にうどんをすする件ちゃん
美味しそうだ…。
全てを平らげると彼女はゆっくりと立ち上がり
僕の耳元にそっと口を寄せてきた…
彼女の吐息がこそばゆい…
そんなアホな事を考えてた次の瞬間
『ピーガガガがぴーガガガがぴーガガガP』
大声で理由のわからない事を言い出した。
凄まじい音量
周囲の木々も揺れる
僕はもちろんその場で気絶してしまった。
薄れゆく意識の中で
ぼんやりとだが件ちゃんが
『役目は果たしたわ…ぐっどらっく…』
なんて事を言っていたが…
一体なんの事だろうか?
「夢だったのか?」
なんて事を思っていると左手に『チロリアン』を握っていた。
「夢じゃなかったのか?」
「役目?」
「なんの事だろう?」
「僕を昏睡させるのが役目の理由無いか…」
カラスが遠くで鳴いている。
まだ頭が痛い
しかし、なんて声だ…
脳を揺らされてしまった…
まだフラフラする…
僕はフラフラと町を歩き出した。
もう夕闇が迫っている
霧が深く足元に絡みつく
深い
深い
深い
霧の中を水の中を歩く様に進んでいく。
「とりあえず寝る場所探さないと…」
僕は歩き出した
怪異が本当に出る町を
第十一章につづく