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海上のアイルトン・セナとは誰の事なのか 最古の銀盃が大西洋を超える日

セーリング(ヨット)はそのスピードと船体が要求するエンジニアリングの水準から海上のF1と言われるそうです。世界最古の大会、アメリカスカップに挑む英国最強のセイラーの勇姿に刮目せよ、です。

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◎”Sail of the Century”(世紀のセイリング)

Ben Ainslieという名前はセイリングの世界に縁遠い人、つまり大多数の人にとっては聞き慣れないものでしょう。しかし、彼が議論するまでもなく英国のスポーツ界で最大級の偉人の1人です。オリンピックを5大会連覇し、47歳を迎えた今も衰えを知らないセイリング界の巨人です。

彼が率いる英国チームの躍進は止まる様子を見せません。昨日スペインのバルセロナ沖で開催されたルイヴィトン杯では対戦相手のイタリアと息を呑む(①nail-biting)戦いを繰り広げ、わずか17秒の僅差を制し勝利を収めました。

この勝利により英国チームは世界最古の大会、アメリカスカップへの挑戦権を得る事となります。Ben Ainslie氏個人としてはアメリカのチームとして同大会を制した事はありますが、英国のチームはまだ一度も勝利した事がありません。今回の様に参加資格を得たのでさえ1964年に遡らなければならず、まさに悲願という所でしょう。

セイリングの勝敗が様々な要因により左右されます(②eclectic)。選手の強靭な身体能力やチームワークは勿論の事、機材である船の性能も重要な要素です。平坦でなく波の止む事ない海上を高速で走行する強靭さ、空気抵抗を最小限にする工夫、操舵性を確保する機能性とまさにF1に類する(③akin to)技術的なチャレンジに満ちています。

F1界にはアイルトンセナというレジェンドが存在しました。Ben Ainslie氏のセイリングにおける存在感はセナを凌ぐと言っても大袈裟ではありません。チームの健闘とアメリカスカップが大西洋を超えて英国にもたらされん事を祈るばかりです。決戦は10月12日、相手はニュージーランドです。


□本日のポイント■■■

①nail-biting/息をのむ

爪を噛むというのは子供は不安や緊張を感じる時にとる行動ですが、大人も思わず爪を噛んでしまうような緊迫した試合だったという事ですね。
爪に口からのバクテリアが入ったり、爪の周りの皮膚があれたりと良いことはありませんが、子供のように試合に魅入る観客の様子がうかんでくる表現です。

🔳Yesterday, in the nail-biting final of the Louis Vuitton Cup held in waters off Barcelona, with Sir Ben as skipper, the yacht Britannia left its Italian rivals in its wake by a winning margin of 17 seconds.

(試訳)昨日バルセロナの沖合で開催されたルイビトン杯は息を呑む戦いであったが、終わってみれば勝った英国チームと相手のイタリアチームの差はわずか17秒であった。

②eclectic/様々な要因をはらむ、折衷主義

ギリシア語が起源です。複数のものから良いものを選ぶという言葉で、一つの考えや要素に限らず複数から良いとこどりをするという考え方です。セイリングも選手のフィジカルだけでなく、機材や戦略も勝ち負けの重要な要因ですので、まさにeclecticなものという事になります。

🔳Eclectic interests remain key to competing in the America’s Cup today.

(試訳)様々な観点での利害が本日行われるアメリカ杯の勝負の鍵となる。

③akin to/類する

似たところがあるよという事です。kinは家族、血族の意味でしたが時代を下るにつれ同じ性質を持つという意味になりました。
セイリングとF1には同じ性質があるという事ですね。

🔳The result is akin to a Formula 1 car on water (it is no coincidence that the sailing team is bankrolled by Sir Jim Ratcliffe’s INEOS, partowner of Mercedes’ F1 team).

(試訳)その成果はは海上のF1カーと言えるようなものだ(セイリングチームのスポンサーをしているのはJim Ratcliffe卿のINEOS財団であるが、この財団がメルセデスのF1チームの出資者である事は偶然ではない)。

◇一言コメント

今回Ben Ainslie卿達が挑むアメリカスカップは英国にとっては因縁深い大会です。その起源は1851年に開催されたロンドン万博の記念行事と言われています。アメリカを代表して参加したニューヨークヨットクラブが帆船の操作技術をお家芸とする英国のチームを見事打ち破り、それに感銘を受けた当時のヴィクトリア女王が銀杯を贈って以来、セイリング会で最も重要な大会として戦われてきました。

贈られた銀杯は”Auld Mug”と呼ばれ大切に扱われ、何人たりとも素手で触れることを許されません。運搬にあたってはルイヴィトン謹製の専用トランクが用いられ、飛行機はビジネスないしファーストクラスと決まっているそうです。今回Ben Ainslie卿が勝利すればこの”Auld Mug”が初めて大西洋をわたり英国にもたらされることとなります。

タイトルのSail of the centuryは昔のテレビショー、Sale of the centuryとの言葉遊びです。sailとsaleの発音は同じですので、絶妙な言葉遊びという体です。テレビショーの方は参加者がクイズに答え5ドルづつ獲得していく形式で、途中自分の特典を景品に換えて持ち帰る事ができるチャンスが到来します。アメリカをはじめ世界中で放映された番組ですが、その熱戦をなぞらえているのかもしれません。

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