Vol.80#挑め!Leading Article/輸入チーズとハムの危機はチャンスとなるのか?
今日のテーマは”輸入手数料新設と国産品の商機”です。
🔹🔸このコラムでは毎朝その日のLeading Articleから解釈の決め手となる語句を3つ選んで解説していきます。定着させて英語を読む事がどんどん”楽”にしていきましょう🔹🔸
24年4月30日よりドーバー港ないしユーロトンネルを経由して英国に輸入される動物性の食品に対して”共通使用手数料”と呼ばれる関税が課される事となりました。Brexit後に実施されるようになった検疫に係る費用を回収するためとされており、単品では最大£29が徴収されます。EUを脱退した英国ですが、delicatessenと呼ばれる高級チーズやハム等の主要な購入先は依然としてフランスやイタリアといった欧州の国々です。この新たな手数料により値上がりや入手性の悪化など食道楽たちにとっては苦境が予想されます。
しかしこの新たな輸入手数料も考え方を変えれば、国産品にとっての商機を招くチャンスです。近年英国では手作りで高付加価値の加工肉やチーズの生産が一大ムーブメントとなっており、その品質とバリエーションの進化は本家のフランスを凌ぐ勢いです。そこに価格競争力が加わるとなれば、消費者が国内産品を選択しない理由はありません。
チーズや生ハムといったワインの誘惑を何とか払いのけ、読み進めていきましょう。後半にはシェイクスピアとド・ゴール元大統領の共演もあります。
◎今日のLeading Article:Blessed Are The Cheesemakers
New duties on EU deli imports may boost sales of British produce
British gourmands may soon find themselves more closely counting the cost of camembert and the price of parma ham. The government’s announcement that small imports of delicacies such as cheese and salami from European Union countries will be subject to hefty fees under “the common user charge” has caused dismay among businesses: individual items face charges of up to £29, while a mixed consignment will be capped at £145.
The authorities say this charge is needed to cover post-Brexit costs of “essential biosecurity checks”. But William Bain, of the British Chambers of Commerce, has called it a hammer blow to trade and warned that Britons might “not have such a well-stocked cheese or meat deli counter”.
While we might fervently hope that a better deal for importers is found, we should also bear in mind Shakespeare’s adage “sweet are the uses of adversity”. One such obvious use could be that, in avoiding import duties, discerning consumers and retailers will delve deeper into the swelling store of high-quality British produce.
This country is now making noticeable strides in the conquest of charcuterie: in the early noughties there were only a few British cured meat producers while today they exceed 200.
With artisanal cheese, we are already victorious: the UK now produces about 1,000 varieties, almost double the French total of 550. For cheeselovers their titles, from Orkney cheddar to Cornish yarg, are as pungently evocative of our island story as the place-names in the shipping forecast.
“How can anyone govern a nation that has 246 different kinds of cheese?” Charles de Gaulle famously asked of France. By the de Gaulle index, it must be four times as difficult to govern Britain today. That might, in fact, be true: but at least if our cheese counters aren’t well-stocked, we have nobody to blame but ourselves.
□解釈のポイント■■■
①gourmand/食道楽
元々は大食漢を意味する言葉でしたが、ネガティブな意味が薄れてたくさん食べ、食べる事を愛する人と前向きな言葉になりました。同じような言葉でgourmetというのがありますが、こちらは少し知識と分析に重きを置いた人たちで、食通という感じでしょうか。他にもgastoronomeやfoodieなど食いしん坊を指す言葉は色々ありますね。
物流に隔たりがなくチーズはフランスのあれが、ハムはイタリアのこれがと食い道楽を謳歌できていたEUの時代から一転し、ドーバー海峡を越える際にあれこれと検疫をしなければならなくなり費用の負担が財政を圧迫するようになりました。そこで輸入手数料を課して検疫費用を賄おうという事になったわけですが、そうした支払いは結局のところ消費者が負担する他ありません。gourmand達にとっては危機的な状況なわけですね。
②delve deeper into /より深く掘り下げる
delveは古英語でdig(掘る)の意味を持つ言葉です。ここでは土ではなくテーマを掘り下げるという意味で使われています。
輸入品に新たに関税がかかるようになった£29で今は5000円位ですので価格競争では明らかに国産品に優位があります。”sweet are the uses of adversity(甘美な事だ、この苦境を活かす道はいくつもある。)”というシェイクピアの言葉のとおりピンチはチャンスだというわけです。
このadage(格言)は”お気に召すまま”という作品の中で実弟の反乱により地位を失った公爵が逃れた森での生活に都会にはない落ち着きと自省の機会を見出す際の言葉ですね。今こそ、国産品チーズの可能性をdigる時という事です。
③noughties /2000年代前半
naughtは元々はnot a thing(何もない)で、これがnaughtと縮まってゼロを意味するようになった言葉です。つまりゼロ世代という事で各世紀の0年から10年を指します。naughties anthemといえば2000年代のヒット曲なわけですね。
charcuterieはフランス語で食肉加工業を意味します。文中ではcured meatという表現も出てきますが、このcureは燻製などをして水分を除いたり塩漬けにして保存期間を延ばす処理を指します。チーズだけでなく、ハムやサラミもnaughtiesにはほとんどなかったのに今は200以上の製品があるぞという奥に自慢です。
■試訳
EU高級食材の関税新設で英国産品販売増見込
英国の大食い達はより真剣にカマンベールとパルマハムの値段を計算するようになるだろう。政府の発表によればチーズやサラミなどの高級食材をEU加盟国からの少量で輸入する際に”共通使用料”の名目で多額の手数料を課される事となった。企業にとっては気が滅入る出来事だ。個別の品物への手数料は最大£29であり、混載便の場合は£145が上限となる。政府の見解は、この手数料はBrexit後に発生した”必要不可欠な検疫”の費用を賄う為に必要なものであるというものだが、英国商工会議所のWilliam Bainはこれを貿易にとっての痛手として英国国民に対して、”チーズや加工肉カウンターの品揃えは今のようにはゆかないかもしれない”と警告している。より有利な輸入取引が見つかる事を切に祈る一方で、シェイクスピアの金言を念頭におくべきであろう。”甘美な事だ、この苦境を活かす道はいくつもある”。そうした道に明白なものが一つある。それは輸入手数料を回避する目的で違いのわかる消費者と小売業者が高品質な英国産品の販売拡大により深く関わるようになるという事だ。英国は現在シャルキュトリエ征服に向けて大きな前進を成し遂げている。2000年代初期には英国の加工肉産品は数えるほどしかなかったわけだが、今日200を超えている。手の込んだチーズに関しては、今や勝利を収めようという所まで到達している。英国が生産している数は1000種類となり、これはフランスの合計550種類の倍である。チーズが大好きな人ならば、オークニーチェダーやコーニッシヤーグという名前を聞けば英国の話だとぴんとくるだろう。それは海洋天気予報に出てくる地名が英国の地名だとわかるのと何も変わらない。246種類のチーズがある国をどうやって収めれば良いのかとフランスについて問うたのはシャルル・ド・ゴールであった。このド・ゴール指数でいえば、今日の英国は4倍統治が困難だということになるはずだ。実際にそれは間違っていないかもしれないが、少なくとも我が国のチーズ売り場の品揃えが良くないのだとすれば、自分達自身を責める他ないという事である。
◇一言コメント:
”246種類のチーズがある国をどうやって収めれば良いというのだ!”これは元フランス大統領のド・ゴール氏が多様な地域性を持つ自国における政治の難しさをぼやいた言葉です。しかし、このチーズ多様性指数に照らすと1000種類のチーズを誇る現代の英国は4倍政治をするのが難しいという勘定です。
食の好みの強さが政治の難しさと相関する事例は我が国日本でも多々見られる現象ですね。我らが山形県も食の独自性と多様性についてはなかなかのものですが、例に漏れずなかなかあくの強い方が多いです。
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