伝説のマーケターとタッパーウェアの終焉と
今や誰もが知っているタッパーウェア。
しかし、発売当初の1942年の世界ではキッチン製品に新規素材のプラスチックを使用する事自体が信じがたい発想でした。そんなタッパーウェアを世界の台所に普及させたのは実は1人の女性マーケターでした。伝説のマーケター、そしてその後継者達が直面した苦境のお話です。
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◎”Fate Sealed?”(運命は変えられない?)
まずタッパーウェアのタッパーが実は人名だったという驚きの事実から。
この画期的な製品を発明・製品化した方がEarl Tupper氏。彼の名前が今も私たちの生活の一部となったタッパーの由来です。
当時のプラスチックは何しろ先進的な素材でした。軽量で耐水性に優れ成形の自由度も高い素材で自動車やエレクトロニクスの分野で製品の性能を革新的に向上させました。その目新しい素材を台所用品に応用したのがタッパーウェアのルーツです。この発想自体がすごい事は疑いありませんが、いかんせん主なユーザーは女性という時代です。目新しさは販売においてどちらかといえば障害となりました。石油でできた食器ですからね、無理ないです。
タッパーウェア社は1949年には精密な金型による成形技術の革新によりふた(seal)の密閉性を上げる技術を開発し特許を取得します。そして、早速その画期的なふたを実装した製品を発売するわけですが、前述のとおり世の中の反応はイマイチなままでした。そんな時、後に副社長となるBrownie Wise女史が"party plan" と呼ばれる画期的なマーケティング手法を打ち出します。
Wise女史がここで行ったのは主たるユーザーである女性達自らタッパーウェアを販売してもらうという発想の転換でした。tupperware社が彼女達に呼びかけ、その知り合いを対象に”tupperware party”というパーティを開催してもらいます。製品を使ったゲームや軽食を主として製品に親しんでもらい、機会をみて販売してもらうという方法を仕組化し全米に展開しました。プラスチックという目新しい素材に対する心理的な障壁をユーザー自ら販売してもらう事で乗り越えるという作戦です。
この”party plan”は大成功しtupperwareの売上は爆発的に拡大。どの家庭にも必ずと言っていいほど(①near enough every)tupperwareがある、というほdに普及が進みました。販売の先頭に立ったWise女史も時の人となり、女性で初めてBusiness week誌の表紙を飾りました。"party plan"はアメリカにとどまらず1960年代には英国をはじめ欧州にも進出し瞬く間に普及していきました。バッキンガム宮殿の給仕(②footman)を装って潜入した暴露記者が英国のエリザベス女王も朝食のシリアルをタッパーウェアに保管している事をリークし物議をかもすという事件もありました。
しかし、順調にみえたブランドの勢いに翳りが見えはじめます。
製品の発明者Earl Tupper氏とのいざいこざによりWise女史は解雇され、Tupper氏も会社とブランドをRexaalに売却して隠居してしまいます。天才発明家と伝説のマーケターの最強タッグはあっけなく解消となってしまいます。
それでも世界レベルのブランドと優れた製品は残り世界中で愛されてきました。しかし、近年の原材料価格高騰と後発競合との差別化失敗により苦戦を強いられていました。
特許が切れた際にも価格を据え置くなど楽観的なプライシング(③optimistic pricing)を続けた事も小さくない失策でした。また、伝家の宝刀、”Party plan”での直接販売もCovidにより開催が困難となり、その対策として考案されたオンライン移行もぱっとしません。
そんな中9月14日Tupperware brands Corpが会社更生法の申請を行った事が報じられました。一つの時代を作ったブランドは突然終焉を迎えようとしています。
製品としての先進性、製造の確かさ、機能するマーケティング戦略。これらが奇跡的に揃った所にtupperwareの躍進と普及があったのかもしれません。現在ナショナルブランド、世界中で愛されている製品の歴史と背景には、こうしたポーカーの難しい役が揃う時のような幸運があるのでしょう。
□本日のポイント■■■
①Near enough every/必ずと言って良いほど
必ずという言葉は強い言葉です。一つでも例外があると、その発言は嘘という事になるので気の利いた人はそういう言い切りをしないものです。
そんな際に便利なのがこのNear enoughです。そう言っても良いくらいに強い傾向ですよという意味になります。口語では、”It's 10 o'clock, near enough”の様に単体でも使えます。9時58分だけど、もう10時って言って良いよねみたいな感じです。例文の蓋だけなくなる問題もあるあるですね。
🔳 Near enough every kitchen in the land had a drawer full of Tupperware, although probably featuring fewer lids than receptacles.
(試訳)英国のどの家庭のキッチンにもタッパーウェアで一杯の引き出しがあったと言っても良いくらいだろう。ただ、おそらくどの家庭の場合も蓋の数が容器よりも少ない。
②footman/給仕
英国の裕福な家庭で家事を担う使用人の事です。
多くの場合、雇い主から服を支給されて食事の支度や掃除などを行います。
これがButlerというと同じく使用人でありますが、客の接待やfootman達の管理監督や客人の接待、ワインセラーの管理など責任が重く管理的、対外的な役割を担う存在となります。
🔳 An undercover reporter posing as a footman at Buckingham Palace revealed that even Queen Elizabeth II was a fan, using a range of containers to store her breakfast cereal.
(試訳)バッキンガム宮殿の給仕を装った暴露記者がエリザベス2世女王でもまたタッパーウェアのファンであり様々な容器を備えてご自身の朝食用を保管されていると明かした。
③optimistic price/楽観的な価格
楽観的な、というoptimisticは人生においては褒め言葉ですが値付けや株価などで使われる場合は現実見てなさすぎですよーというディスです。
特許がきれれば他の会社も同じ機能を持つ製品を市場に投入して勝負してきます。普通に考えれば値段を下げざるを得ません。
しかしタッパーウェアの経営者達には製品に相当な自信があったのでしょう。特許切れにより失われる技術的な優位性だけでなく、製造面での優位性もあるからと値段を据え置く選択をしてしまいました。競合が投入してくる類似製品を圧倒するほど強力な製品を持って迎え撃つ事ができればいいのですが、78年売り続けている製品です。そのような強力なイノベーションを起こすことは至難の業であり、結果競合にシェアを奪われる展開を迎えます。
🔳In later years, its patents expired, Tupperware, maintaining optimistic prices, failed to innovate in the face of competition from cheaper alternatives.
(試訳)特許が切れてからもタッパーウェアは楽観的な価格を据え置いたものの、より安価な類似製品との競争の中でイノベーションを起こす事に失敗した。
◇一言コメント
sealはtupperwareでは”ふた”の部分ですが、欧米では手紙を封筒に入れた際に蝋などで封をする事を指す用法もあります。
そこからfate(運命)をsealするというのは、運命が決まってしまい変えられなくなるという事を意味します。会社更生法を申請したtupperwareは消え行く運命が確定か?というタイトルになっています。
Wise女史のストーリーは映画化も予定されていた様です。
主役のWise女史役は何とサンドラブロックというウェブ記事だけが残されており、実際の映画のウェブページやDVDを見つける事はできませんでした。何かの事情で中止になったのでしょうか、サンドラブロックが生き生きと演じる伝説のマーケター、その活躍。この映画見たかったなあ。