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神の見えざる手に日焼けどめクリームを! VAT軽減って本当に意味あるの?
政権交代後初の予算を控えた英国ですが、自由民主党が政府に突きつけた驚きの政策提案はなんと、、、日焼けクリームへのVAT撤廃という奇策でした。ここで一体何故日焼けクリームなのか、そもそも意味あるのという疑問と一緒にお届けします。
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◎”Taxing Problem”(面倒な問題)
VAT(Value Added Tax)は物やサービスを購入する際にかかる税金のことで、日本の消費税に相当するものです。英国では基本20%で設定されており、歳入の15%を占める重要な財源となっています。その一方で政府の各種政策の推進にあたってVATを5%や0%に軽減する措置も多くの品目で実施されています。例えば公共教育に用いられる教材や子供服などのようにVATを0%にして購入する側の負担を軽減するなどの例があります。税率を使って教育や子育てを支援するという趣旨です。
しかし、そうした政策ツールとしてのVATは必ずしも期待通りの効果を発揮するとは限りません。特にVATの税率を下げる事で価格が下がる事が前提となっている場合は注意が必要です。価格を抑制しているのは”神の見えざる手”であり、税の軽重ではないからです。単純に売値にのっかってくるVATをゼロにしても企業はそれを理由に値下げするような事はしません。現行価格というのは言ってみれば消費者が支払う事を許容している価格であり、企業としては試行錯誤の結果見つけたお客さんとの落とし所なわけです。新たな競争相手が市場に参入してきて戦いにでもならない限り自ら利益を削って値下げするような行動を取るわけがありません。
こうした仕組みは250年前にアダムスミスが論じたもので、経済学の基本的な考え方ですが、政治家にはそれを理解しているとは思えない提案をする人が少なくありません。今回の予算に関する議論でも自由民主党が政府が高指数の(①high-factor)日焼け止めクリームに対するVATを0%にする事を提言していますが、その典型例です。自由民主党の理論づけとしては日焼け止めクリームに対するVATを下げれば、その分価格が下がり多くの人が日焼けクリームを使用するようになり、その結果皮膚がんを患う人が減りNHSの診察回数も減っていくというもの。この価格が下がるという前提が現実に沿っていないということですね。しかも、この悲観論はうわべだけの(②highfaultin)理論だけのものではなく裏付けとして実際の事例もあります。これまでにも電子書籍やタンポンでも同様の試みがなされ、結果値段は下がらなかったという実績があり、いい加減学べよという話ですね。
鳴り物入りの(③high-profile)推進活動の後で残ったのは目減りした歳入と複雑な税制のみという残念さに反省し、政治家の方には空想に惑わされない政策立案・議論をお願いしたいものです。
□本日のポイント■■■
①high-factor/高指数の
日焼けどめクリームで高指数というのは紫外線を防ぐ効果を評価する指数が高いという事です。この指数には大きく2つあって、日焼けや肌荒れにつながる紫外線A波に対する防御力を示すSPH(Sun Protection Factor)とたるみなどにつながる紫外線B波に対するUAの各々の指数が高いものをざっくりhighfactorと括って言及しているわけですね。
試しにperplexityさんにおすすめの高指数日焼け止めを聞いてみました。
するとSPF50+/PA++++を誇るアネッサ パーフェクトUV スキンケアミルクという商品を勧めてくれました。しかも高指数の日焼け止めクリームは肌への負担が大きいから、適度な指数のものを選び使い分ける必要というアドバイスまで。お作法としてはなかなか奥深いものがありますが、perplexityさんはどれだけ女子力高いんでしょうか。
🔳 The party is urging Rachel Reeves, the chancellor, to announce in her first budget in October that she will scrap VAT on high-factor sun cream.
(試訳)自由民主党は財務大臣のRachel Reevesに働きかけ、10月に発表される予算案で高指数日焼け止めクリームへのVATを撤廃させようとしている。
②highfaultin/張りぼての、うわべだけの
語源は諸説あり定かではないですが1830年代のアメリカの口語に起源があるそうです。大袈裟で外面はそつなく素晴らしいけど中身がないことをディスる言葉です。faultinはフルートを吹くが起源だとかflyingの変形だとか、どれもそれっぽくどれも確かじゃありません。
🔳 It is not as if this is some piece of highfalutin theory. The empirical evidence is already in.
(試訳)これはうわべだけの理論の一端ではない。経験的な証拠は存在する。
③high-profile/世間に注目される
世間やマスコミに注目されるという意味の言葉です。元々は顔の輪郭という意味でしたが、そこからいわゆるプロフィールや概要という意味になりました。プロフィールという謎の発音は同じ語源のフランス語に由来しています。
🔳All that was achieved by high-profile campaigns for scrapping VAT on these products was to reduce revenues and make the tax system more complex.
(試訳)これらの製品へのVAT撤廃の活動は鳴物入りであったにもかかわらず、結局は歳入を減らし税制を複雑化させただけであった。
◇一言コメント
イギリスでは一般的な食品にかかるVATは0%ですが、レストランで提供される食事や持ち帰るにせよ直ぐに食べられるよう調理されたもの(hot take away)は嗜好品として扱われ通常の20%が適用されます。ただ、ここで take awayかどうかの基準だけで考えるとスーパーのお惣菜などは微妙なところです。直ぐに食べようとすれば食べられるわけですが、実質は調理されたものなわけです。
そこで基準にhotという要素が入ってきます。なんと単純に提供時に気温よりも高い温度になっているかどうかで判断するそうです。これに照らすと英国のソウルフードであるフィッシュアンドチップスはばっちり20%適用確定となります。
このあたりの事情を書いたウェブページがあったので読み入ってしまったのですが、どこの英国通の方かとおもったら電気機器メーカーのCASIOさん。彼らは計算機から派生したレジやPOSシステムの商売をしています。VAT対応の前線に詳しいのだろうなあ。と思ったら、撤退してましたね。
タイトルのtaxingは課税の意味だけでなく、面倒なという意味のダブルミーニングになっています。確かに面倒な問題です。