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悩める大英博物館 ギリシャ文明の遺産はギリシャに飾るべきでしょう!?
大英博物館の所蔵品にエルギンマーブル(Elgin marbles)と呼ばれる大理石の彫刻があります。アテネのパルテノン神殿を飾っていた彫刻群ですが、当時の外交官エルギン伯爵トマスブルースが保護を建前に英国に持ち帰ったものです。1970年代から返還を求めるギリシア政府ですが、英国が素直に従うわけもなく長らく硬直状態が続いていました。至高の文化遺産をめぐる議論の新たな展開とは?
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◎”Parthenon Progress”(パルテノンの進歩)
問題となったエルギン卿の行為に対して英国が国として見解を出したのは1816年に遡ります。政府により設置された調査委員会はエルギン卿が当時ギリシアを領有していたオスマントルコ帝国のスルタンでったセリム3世の許可があった事を論拠に、エルギン卿が彫刻を英国に持ち帰ったのは略奪ではなく文化財を損壊(①defacement)から守る目的の行動だったと結論づけました。もっとも当時のオスマン帝国はパルテノン神殿を重要な文化財として扱ってはおらず、爆薬の火薬庫として使用していましたので、保護の為というエルギン伯爵の言葉と気持ちに偽りはなかったのかもしれません。
かくしてエルギンマーブルの返却という事にはならず、今も彫刻群は大英博物館に展示されているわけですが、気の毒なのはギリシアです。アテナにせっかく作った立派な博物館にレプリカを飾る状況に甘んじています。
しかしながら、ここで一番大事な視点は芸術的な遺産としての彫刻群が何処に飾られているのが観賞する立場からすれば最適なのかという事ではないでしょうか。単体で遠国の博物館の棚を飾るのよりも現地で関連する遺産と一緒に展示された方が良いのは明らかです。また、彫刻が果たして誰のものかという味気ない(②arid)議論を深掘りしても法律家が儲かる(③line the pocket of)だけで良い事は何もありません。
政権交代があり英国政府の姿勢にも変化の兆しがあります。直近の国会で彫刻をギリシアに貸し出しをする案が議論された際には、基本的には大英帝国の管財人が決定する事項としながらも、大英博物館の責任者がギリシア政府と前向きな議論をしているという回答がなされました。
本物を大英博物館からギリシアに貸し出して、代わりにレプリカを借りて英国の歴史遺産として展示したら良いかもしれません。
□本日のポイント■■■
①defacement/損壊
壁や文化財を汚したり、壊したりする事です。現代では企業や公共機関のウェブサイトにハッキングしてめちゃくちゃにする犯罪にも使われる言葉です。エルギンマーブルも火薬保管庫の壁のままになっていたら掲示やら線引やらで酷い状態になっていたかもしれません。
🔳 He had been trying, he said, to prevent the defacement and destruction of the statues by bringing them to safety, and claimed to have done so with the permission of the authorities.
(試訳)自分は彫刻の損壊や破壊を避けるべく、安全な場所にもってきたのであり、権利者の許可も得ていたのだと述べた。
② arid /不毛な
元々は土などが乾いていて植物が育たないという意味ですが、議論な研究対象が面白みにかけ得るものが少ないという意味で使われています。そもそもギリシア文明は誰のものかみたいな話を深掘りしても何にもならないです。
🔳 It is the statues’ status as exquisite artistic artefacts, rather than arid disputes about the legal status of a 200-year-old letter of permission from the Sultan of the Ottoman Empire, that ought to guide their care and safekeeping today.
(試訳)その石像の精巧な芸術作品だった事自体が、注目され今日に至るまで保管されてきた理由だろう。200年前にオスマン帝国のスルタンが出した許可に関する不毛な議論は問題外だ。
③line the pocket/私腹を肥やす
lineは何かで入れ物をいっぱいにするという意味です。その方法はあまり褒められたものでない場合に使います。不毛な議論を続けても、それを担う法律家達への高額な支払いが増えていくばかりだという感じですね。
🔳They could then be displayed in Athens without raising technical arguments about ownership that would achieve little except lining the pockets of lawyers.
(試訳)そうすれば所有権に関する専門的な議論を回避しつつアテネでの展示が可能となるだろう。そんな事を議論しても法律家が儲かるだけで何にもならない。
◇一言コメント
このエルギンマーブルですが、1999年にはスキャンダルとなっています。一般的にギリシアの彫刻といえば白い大理石のイメージがありますが、実物は青や赤の鮮やかな色で塗装されていた事が研究で明らかになっています。しかし、当時の英国人にとってはギリシアイコール白のイメージの方が受け入れやすいとの奢った判断から大英博物館のスタッフが塗装の残滓を剥ぎ取るだけでなく白さを強調する洗浄をおこなったという事が明るみにでて大騒ぎになりました。損壊から守る名目で持ってきた彫刻を自ら損壊していたという残念な話です。ギリシア文明は誰のものか、ではなく実際はどうだったのかという議論の方が学術的には意味のある観点ですね。