イギリスの教育改革に”先輩”に学ぶ素直さはあるのか
”アカデミースクール”と呼ばれる国が直接資金を提供する公立学校の導入により英国の教育が生まれ変わったのは2000年初期の事でした。四半世紀を過ぎて再び議論となる学校の問題。日本が参考にできる事も多そうです。
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◎”Turning Back the Clock”(逆行)
トニーブレア政権の大きな実績に教育改革があります。中央政府が直接出資して各地にアカデミーと呼ばれる学校を設立し、教員に裁量を持たせた学校運営をさせる事で先進的で効率の良い教育を実現しました。このアカデミーは基本学費がかからない為、豊かとは言えない家庭の子弟にも教育の機会が開かれました。
ポイントは学校の運営者の裁量の大きさでした。最低限国が定めるカリキュラムを消化する事は必要ですが、基本自ら学習内容を決定する事ができます。また学期の設定や教員の採用などの運用面でも自由度は高い為、合理的なスケジュールを組み優秀な教師を投入しやすい仕組みとなっています。
ブレア政権のスローガンは”第3の道”でした。それまで教育は地方自治体が管理する公立学校か上流階級のエリート育成を担う私立学校の二択だった所にまさに”第三の道”を提示した点で”らしい”政策だったと言えるでしょう。
その効果については数字が物語っています。教育水準の向上は各種成績でも数値的に観測され、アカデミースクールは全国に普及していきました。その結果、現在初等学校の4割、中等学校の8割がこのアカデミースクールとなっています。この方針は①前任の(erstwhile)保守党政権に移行してからも長らく継続していたわけですが、そこにブレア元首相の後輩達である労働党政権が更なる”改革”を提言したというのが今回の話の始まりです。
ところがその”改革”の内容たるやトニーブレア元首相も真っ青になるようなh逆行ぶり。昨年12月に提案された”児童福祉と学校に関する法案”は地方自治体の参加を促すという名目での改革を提言するものですが、その実態は授業内容に関する裁量を奪う内容に他なりませんでした。
また教員の賃金についても公立校の水準に合わせる内容を提言しており、学校の運営者の士気を大いに後退させるものです。何よりせっかく除外した地方自治体の役人の教育への介入を許す点はブレア政権時の改革の原理に反する内容となっています。確かに労働党の中でも教員労組にとってみれば時に大きな賃金格差を発生させるアカデミースクールは②鬼門(bête noire)と言える政策であり、今回の法案はその反発の顕在化であるという見方もできるでしょう。
しかし、教育を受ける側を代弁する児童委員は黙っていません。この労働党政権の法案に対し、souza女史が③激しい批判(broadside)を展開しています。タイムズ紙はそれを擁護しているという図ですが、同紙は2022年に自社で教育に関する大規模な調査と提言を行なっています。議会の時間を無駄にしていると切り捨てる根拠もあるのでしょう。
もちろんアカデミーにも様々な懸念点はあるでしょうが、それらは各アカデミーのパフォーマンスの問題として対処すべきであり教育機関をどの様に管理するかの議論を持ち出すのはまだ早いでしょう。何より教育に地方自治体の役人が関与を強めるのは賢明とは言えません。経験豊かな校長先生と市役所の役人、子供の教育を任せるのであればどちらか?答えは明白です。
□本日のポイント■■■
①erstwhile/過去の、前任の
今はそうではない昔の、という意味の言葉です。one-timeとも言います。
今は労働党政権ですので、かつての保守党政権の際もという意味合いですね。
🔳 The passionate endorsement that academies received from both Sir Tony and the** erstwhile** Tory education secretary Michael Gove has not endeared the institutions to the Labour left either.
(試訳)トニーブレア元首相と元保守党教育大臣マイケル・ゴーブは両名ともアカデミーを熱烈に支持しましたが、労働党左派にアカデミーを好ましく思うことはありませんでした。
②bête noire/鬼門
またフランス語の時間です。直訳すると黒い獣という意味ですが、ものすごく嫌で苦手なものという感じです。"Math was always my bête noire in school."(数学は常に私の鬼門だった)というように使います。
同じように恐れられている存在としてbugbearというやつもいます。これは恐ろしい🐻という文字面ですが、森に潜み子供をおどろかす存在です。
🔳 The programme has long been a **bête noire **of Labour’s left wing and the teaching unions. Yet that opposition is driven by ideology and tribalism.
(試訳)このプログラムは労働党の左派そして教員労組にとっては鬼門だが、そんな反発は思想や身内主義によるものである。
③broadside/激しい批判、一斉射撃
イギリスらしい海軍にルーツを持つ言葉です。broadsideは艦船の一方の舷側を差します。通常この舷側には大砲が備え付けてある為、攻撃する際はこの舷側を相手に向けます。そこから一斉射撃という意味に転じました。
broadside diplomacyといえば一斉射撃のように周囲に対して無双する危険な外交方針です。
🔳 Dame Rachel de Souza, the children’s commissioner, has launched a broadside against Labour’s plans to strip academy schools of their freedoms, warning that they will leave children in failing schools for longer.
(試訳)デームRachel De Souzaは労働党政府のアカデミースクールから裁量を奪う計画に対し全面的な反対声明をだし、児童委員として今の政府は失敗した学校により長い期間子供達を入れておく事になると警告している。
◇一言コメント
最後に”教育改革で主眼に置くべきは教室で何が起こってるかであって、遠く離れた役所で起こっている事ではない”と締め括っていますが、まさにそのとおりだと思います(踊る大捜査線のテイストを感じます)。
何より子供とその教育に関する事を優先するという当たり前の方針がきちんと守られているかという事が大事ですが、日本の場合は少し怪しいです。